「こんなことは事前にチェックできたはずなのに」…


 「こんなことは事前にチェックできたはずなのに」と、大事故を前に臍を噛む例は多い。2012年12月、山梨県の中央自動車道笹子トンネルで天井板が崩落、9人が死亡した事故もそうだ。

 その犠牲者の遺族が、トンネルを管理する中日本高速道路(名古屋市)などを訴えた訴訟の判決があった。横浜地裁の市村弘裁判長は「事故は予見でき、入念な点検方法を採用すべき注意義務を怠った」と被告の過失責任を認め、計約4億4300万円の損害賠償の支払いを命じた。

 一方、中日本高速側は、トンネルの安全性不備を理由に賠償責任を認めたが、「天井板の落下は想定外」と過失責任を否定していた。当事者が一定の責任を自覚しているとはいえ、裁判所の判断とのギャップは小さくない。

 『安全技術の経済学』(鶴蒔靖夫著)に「技術と人間の隔絶」ということが出ている。「(検査の)対象部分だけでなく周辺部にも目を配ることで、将来、事故につながりかねない“芽”を発見するケースは少なくない」と。

 つまり、技術を生かすも殺すも最後は人間の責任。その自覚の下に、作業や手順の安全ポイントは何か、責任の所在は明確か、緊急場面での処理の仕方についてはどうか……が決定されるべきだという。

 その要諦が理解されず、基本的な作業を怠れば、最悪の事態を引き起こしかねない――中日本高速側もこの経験的な事実を踏まえるべきだ。