連続マイナス成長でも中長期的視点だけで成長基盤強化を説く各紙
◆好循環は風前の灯火
多くの経済調査機関の予想通り、15年7~9月期の国内総生産(GDP)は、実質で前期比0・2%減、年率換算では0・8%減と2期連続のマイナス成長になった。連続マイナス成長は14年4~6月期、7~9月期以来で、日本経済は景気後退と言われてもおかしくない状況にある。14年4月に実施された消費税増税から1年半が経過しても、この状況だ。
今回は増税の悪影響から立ち直りきらないうちに、中国経済の減速などの影響という不運が重なった形だが、「アベノミクス」の当初、円安・株高から日増しに消費増→生産増→賃金・設備投資増→消費増の経済好循環を実現しつつあった勢いは今や風前の灯火(ともしび)。何とも残念な姿である。
今回の7~9月期GDPについて、各紙はそろって社説で論評を掲載したが、内容は「景気の先行きを過度に悲観せず、中長期的な経済の成長基盤を強固にしなければなるまい」(17日付読売)などという趣旨のものが4紙。厳しく捉えたのは産経、東京、本紙(18日付)の3紙。産経は特に企業の経営姿勢を問い、東京は「アベノミクスをこのまま続けていいのか」とその転換を訴え、本紙は経済の好循環再生へ大型補正を求めるものとなった。
中長期的な視点に重きを置いた各紙の見出しを記すと、次の通り。朝日「ばらまきは許されない」、読売「成長基盤を地道に強化したい」、毎日「民間主導へ環境整備を」、日経「民需主導の成長促す環境整備を急げ」である。
4紙のうち、朝日だけが趣きが違うが、同紙が「中長期的な視点で今後を見すえるべきだ」と強調するのは、そうしないと、今年度の補正予算とその前提となる緊急対策で、「国の今年度当初予算では、37兆円近い新規国債が計上されている」のに、さらに「ばらまき」が実施されかねないと懸念するからである。
◆設備投資低迷が問題
安倍政権批判が中心の朝日に対し、読売、毎日、日経の3紙は文字通り、成長基盤の強化・環境整備に重点を置き、「今、最も大切なのは、官民を挙げて、成長戦略を地道に充実・強化すること」(読売)、「いま政府がやるべきことは構造改革を通じて潜在成長率を押し上げつつ、民需主導の景気回復を後押しする環境を整えることだ」(日経)などと強調する。
日経が主張する環境整備とは、主に「法人実効税率を早期に20%台に下げる道筋をつけるとともに、規制改革を迅速に断行すべき」ことなど。一方、毎日のそれは、雇用労働者全体に占める比率が4割に達した非正規社員の待遇改善であり、家計の収入を増やす女性の就労促進策、さらに企業の成長分野への投資を促す規制改革などである。
確かにこうした環境整備が重要なのは否定しないが、それだけで当面の対策は、「カンフル剤にしかならない予算のばらまき」(毎日)として回避すべきで必要ないのか。
7~9月期GDPで特に成長の足を引っ張ったのは設備投資の低迷で、2期連続でマイナスだった。これは産経などが指摘するように、「景気回復に勢いがないため慎重姿勢から抜けられず」「中国経済の変調がそれに拍車をかけ」ているからである。
◆成長の説得力欠ける
産経はそう認めながら、一方で、「経済再生には、収益に見合う投資や賃上げが欠かせない」「大切なのは、企業自らがリスクを踏まえ、攻めの戦略を構築できるか」だと説くが、企業経営者はこれをどう捉えるであろうか。
同紙も説得力が今一つ欠けているのを認識してか、政府に対し「税制、規制緩和などで企業の経営マインドを好転させる具体策に知恵を絞るべきだ」とする。
読売も「経営者がデフレマインドを払拭し、(高い水準にある設備投資)計画を実行に移せるよう後押しすることこそが政府の役割だ」と強調するのだが、果たして、それだけで「経済の好循環」は一体いつ実現できるのであろうか。
7~9月期の名目GDPは年率0・1%増だった。こんな状況の中、中長期の対策だけで、安倍政権が掲げる名目GDP600兆円の達成はとても覚束(おぼつか)ないであろう。また、成長基盤を整える上で、17年4月に予定されている消費税再増税はその障害にならないのかどうか、各紙は全く触れない。触れたのは本紙だけである。
(床井明男)