朴大統領の南北統一展望 中国は韓国主導統一に反対
新東亜に中国人学者の“本音”
韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が7月、「来年にも南北統一が実現するかもしれない」と発言して物議を醸したことがある。これを伝える韓国メディアには、現状では南北の統一など到底考えられない中で、公式の席で大統領が楽観的な見通しを披歴(ひれき)したことへの驚きと呆(あき)れが混じっていた。
その後、金正恩(キムジョンウン)北朝鮮国防委員会第一委員長の健康不安説が流れた。体重が130㌔㌘に達し、足を引きずる歩き方から、足腰にも問題があるのではないかとの分析も出ている。朴大統領の発言は、こうした情報をもとに、金第一委員長に不測の事態が生じれば、北体制が一気に崩壊して、統一に向けて雪崩を打つ、という可能性を下敷きにしたものだ、と見られた。
これまで“早期統一”の見方はなくはなかった。昨年、世界的な未来学者、トーマス・フレイ氏(ダビンチ・インスティテュート)が、「統一は2015年から20年の間に、突然雪崩のように起こるかもしれない」と語ったと朝鮮日報が伝えている。
朴大統領が「統一準備委員会」を設置し、南北統一に向けて研究や準備を始めようとしたのは昨年の初めだ。こうした可能性への備えであったが、セウォル号沈没事故でそれどころではなくなってしまった。
統一が早期に起こり得るとして、では、どのような形態で実現するかについては、南北や周辺国それぞれの思惑と情勢の変化によって可能性は変わっていく。主導権争いや地歩の確保をめぐって熾烈(しれつ)な外交戦が展開されている。
東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」(10月号)に中国青年政治学院客員教授の張良氏が「韓国主導統一?北京は願わない」の原稿を寄せている。この中で張氏は、中国は「韓国主導の統一を支持するつもりはない」と結論付けている。
中国は歴史的に韓半島の危機に介入してきた。16世紀末の壬辰倭乱(文禄の役)丁酉災乱(慶長の役)で明は大軍を送った。19世紀末の壬午軍乱と東学党の乱(甲午農民戦争)にも清が軍事介入した。さらに1950年の韓国動乱でも100万以上の人民解放軍を送った。
これは韓半島が「中国の喉元」にあたり、ここが不安定化すると混乱は北京に波及し、やがて全国に影響を及ぼすからだ。歴史的に半島の不安定化が中原の王朝倒壊の切っ掛けになったケースは十指に余る、と張氏は紹介する。
半島の安定化は中国の安全にとって必須条件であるため、中国当局は韓国への影響力拡大を進めることになる。「韓半島のモンゴル化」である。現在内モンゴルは中国領、外モンゴルはモンゴル共和国という独立国だが、北朝鮮を「内朝鮮」として自治省にし、韓国を「外朝鮮」として影響の及ぶ独立国にするというものだ。
韓国を「外朝鮮」とするには、韓国を日米韓の三角同盟から切り離して、自陣に引き込まなければならない。習近平中国国家主席が9月3日の対日戦勝利記念軍事パレードに朴大統領を招待したのも、「日米韓同盟の一番弱い輪である韓国をとっておいて、対中軍事同盟を弱めようとする布石」なのは明白なことだ。
中国の国家戦略は半島のモンゴル化だけでなく、西太平洋の覇権を手に入れ、太平洋を米国と二分して、「新型大国関係」を築くことである。しかし現状では「日米同盟軍を相手にするほどの軍事力を備えていない」(張氏)ため、「日米同盟に対抗する国力を備えるまでは、韓半島の安定を絶対視するほかない」(同)のである。
中国人学者による「韓国主導の統一を願わない」という中国の“本音”を載せた新東亜の狙いは何だろうか。アジアインフラ投資銀行にも参加し、対中依存度を強めている朴政権への牽制(けんせい)として、あえて中国の狙いを提示して見せたのだろうか。
とはいえ、中国の狙いを知らない韓国政府ではない。中国への警戒、日米との関係強化が必要なことは百も承知だ。しかし、統一で最も影響力が強いのも中国である。その協力なしには進まない。
中国への警戒を怠らず、かつ日米との関係も重要であることを想起させる、という複雑な狙いがあるとみるのは深読みのしすぎか。
編集委員 岩崎 哲