ユーロスペース(東京・渋谷)で上映中の…


 ユーロスペース(東京・渋谷)で上映中の「ダライ・ラマ14世」を見た。ドキュメンタリー映画はテーマを伝えることに急だと、心にヒットする人間性がよく描けず退屈なものになりがち。チベット仏教の最高指導者の映画となれば、抹香臭さも抜けないのでは。

 そんな危惧を吹き飛ばす2時間弱であった。1935年生まれの14世は来月6日に80歳の誕生日を迎える。59年に命懸けでヒマラヤ越えのインド亡命をしたのが23歳の時。ダラムサラに「チベット亡命政府」を樹立し、チベットの政治と宗教を象徴する指導者として一貫して自由を求める非暴力の闘いを貫いた。

 「足掛け6年、ダライ・ラマという存在に迫る」ドキュメンタリーは、生い立ちから中国とチベットの関係まで記録するが、自身とチベット民衆が辿(たど)った過酷な運命を受け入れつつも、自由と平和への未来を仏に託す生きざまを自然な振る舞いの中に見せてくれる。

 「慈悲の観音菩薩」と崇拝される一方で、存在を恐れる中国からは「悪魔の化身」と中傷される14世。その生身の寛大な人間像が、装ったのでは決して表れない明るさと茶目っ気ある自然な応答から近づいて来る。

 「その行為の裏に、憎しみや騙(だま)してやろうという気持ちがあれば、たとえ笑顔でも、贈り物をしても、褒めていても、表面上だけのことで動機はとても悪質です。それは暴力です」。

 プログラムに記された14世の透徹した言葉が心に響く。