司馬遼太郎の代表作の一つといえば、幕末時代…


 司馬遼太郎の代表作の一つといえば、幕末時代を舞台にして志士・坂本龍馬の生き様を生き生きと描いた歴史時代小説『竜馬がゆく』である。この本を人生の指針としているという話はよく聞く。ソフトバンクの孫正義社長も感銘を受けた一人。

 15歳の時に読んだのがきっかけで、一度しかない人生を世のため人のため志高く生きなければ、と思ったということを述べている。その意味では、それほど有名ではなかった歴史的人物をよみがえらせ、多くの人々に影響を与えた司馬の功績は大きいと言えるだろう。

 実際の龍馬は、土佐藩出身だったために、明治の薩摩や長州の藩閥政府の中で、一部には知られていたものの、忘れ去られた存在だった。それに再び命を吹き入れたのが司馬の筆先だったのである。

 とはいえ、司馬の「竜馬」に魅力があるということは、それだけ史実から離れたフィクションの部分が多いということでもある。果たして歴史上の龍馬と小説の「竜馬」はどう違っているのか。いずれにしても、フィクションの「竜馬」像が独り歩きしていることだけは間違いない。

 司馬の歴史観は「司馬史観」と言われ、評価が高い。が、歴史学者からは、その作品が史実を超えている点を批判されることもある。

 昭和37(1962)年のきょうは『竜馬がゆく』の連載が産経新聞夕刊で開始された日。まさに、この日に新しいヒーローが産声を上げたのである。