韓国の「明治産業遺産群」世界遺産登録阻止活動に眉をひそめた新潮

◆時代が通じない韓国

 長崎の三菱造船所クレーンや通称「軍艦島」と呼ばれる端島(はしま)炭鉱、福岡県の官営八幡製鐵所など九州・山口を中心に、8県23の資産から成る「明治産業革命遺産群」の世界文化遺産登録をイコモス(国際記念物遺跡会議)が勧告した。これまでイコモスの決定が覆った例は1件しかないが、今回はその2例目になるかもしれない恐れが出てきている。

 韓国が猛反対しているのだ。理由は「朝鮮半島出身者5万7900人が強制労働をさせられた施設だから」というものだ。しかし、韓国側には大きな勘違いがある。対象としている時代は「幕末から明治時代の1910年まで」だ。朝鮮半島はまだ日本に併合されてはおらず、ましてや「強制徴用」は国家総動員法が制定された1938年以降に行われたもので、本土の日本人も当時「日本人」であった「半島出身者」と同じように動員された。しかし、その理屈は韓国には通じない。

 週刊新潮(5月21日号)が「『世界遺産』10年の根回しと韓国の破壊工作」をトップ記事で報じている。韓国の反発がなければ、この記事は世界遺産登録の「陰の立役者」を伝える記事で終わっていたはずだ。しかし、登録を待つ喜びよりも、韓国の「破壊工作」に眉をひそめる記事となってしまった。

◆朴大統領の反日外交

 まず、「陰の立役者」である。故加藤六月元農水相の長女「加藤康子さん」だ。今では韓国が妨害者として立ちはだかっているが、これらを遺産登録しようと動きだした当時、加藤さんの前には文化庁や新日鐵住金(旧八幡製鐵)などの当事者たちが難色を示していた。

 記事では加藤さんの10年に及ぶ“苦労話”がまとめられている。粘り強い交渉や根回し、登録のための工夫があって、ようやくイコモスの勧告までたどり着いた。

 それが、韓国の妨害である。最終的に決定するのは世界遺産委員会だ。日本も韓国も委員国になっているが、同誌によると、韓国は「イコモスが正式に勧告する前から様々なロビー活動を行って、登録決定を阻止しよう」(ソウル特派員)としてきたというのだ。

 4月、インドネシアのジャカルタで開かれた「バンドン会議(アジア・アフリカ会議)」60周年行事で、安倍晋三首相と中国の習近平国家主席が会談した。日中首脳会談は韓国に衝撃を与え、「外交的孤立」を懸念する声さえ出てきたが、この時、朴槿恵(パククネ)大統領は、「コロンビアやペルーなど、世界遺産の委員国を歴訪。登録反対を訴え」ていたというのである。「外交的孤立」と言われようが、世界遺産登録阻止を優先したわけで、なんという韓国の執念深さだろうか。

 同誌によれば、世界遺産委員会は「議長国の裁量により、投票か話し合いかで決定する」という。加藤さんは、「他の委員国に多数決の動議を出してもらうしかない。その際は、3分の2、つまり14カ国以上の賛同を得なくてはなりません」と説明する。

 投票で勝ち目はあるのか。「私の感触でいえば、韓国が日韓の歴史問題にこだわる以上、少なからず投票を放棄する国が出ると見ています。そうなれば、日本は窮地に立たされる」ことになる。

◆知韓派の長女の嘆き

 日韓はこの問題で22日に東京で協議することにしている。この場で、韓国側が条件を出し、それを日本側が受け入れれば、事態は変化する可能性はあるが、問題なのは韓国が出す条件だ。

 同誌は「韓国の破壊工作」は書くものの、この協議で妥協点や落としどころがどの辺になるのか、水面下の交渉がどのように進んでいるのかについては書いていない。せめて、韓国側の要求を掴(つか)んで明らかにするとか、それに対する日本側の対応方針だとか――を載せてほしかった。

 「産業遺産の価値そのものではなく、おかしな政治問題を持ち込まれて、本当に大変です」と加藤さんは嘆く。父親の加藤六月氏と言えば、日韓議員連盟の要職も務め、岡山県日韓親善協会会長、日本テコンドー協会会長なども歴任した知韓派と言ってもいい存在だった。その長女が10年間、心血を注いだ遺産登録が危うくなっている。

(岩崎 哲)