中国側が“爆買い”防止へ香港に入境制限
選挙改革案の立法会通過工作も
中国本土からの買い物客が日用品を大量に買い占めたり、道路をふさぐマナー違反を繰り返していることに対する抗議活動が香港で激化し、中国側が観光客数の抑制策を始めた。反中感情から香港独立論まで論議される中、昨年8月、中央政府が決めた普通選挙改革案を今夏、香港立法会(議会)で通過させるため、香港政府は議案否決を求める民主派議員を切り崩す工作を進めている。(香港・深川耕治)
反中感情抑制へ苦肉の策
中国広東省深圳と隣接する香港北部・新界地区にある上水、屯門、元朗、沙田では、2012年以降、中国本土からの観光客を装って転売する運び屋(並行輸入業者)が粉ミルクや紙おむつ、医薬品、化粧品などの日用品やスマートフォンなどを大量に買い占め、特に昨年以降、荷物で道路がふさがれて渋滞を起こすトラブルが急増した。
この周辺を訪れる中国人観光客は大半が日帰りが多く、中国本土客のための薬局や食品雑貨店が軒を連ねる。地元住民は商品価格や賃貸料の価格上昇に加え、公共交通機関の混雑などに以前から強い不満を訴えている。
新界地区では昨年後半から、中国本土からの運び屋に抗議するデモが頻発。デモ参加者の中には「香港人」と書かれたTシャツを着て「香港独立」を主張し、「中国人は中国に帰れ」などの横断幕を掲げたデモ隊と警官隊が衝突して催涙スプレーで警官隊が制圧するケースが繰り返されている。
中国政府は13日、運び屋対策に苦悩する香港政府からの要請に応え、これまで回数無制限だった広東省深圳市民の香港訪問を同日から週1回に制限すると発表。香港政府は深圳の運び屋摘発や中国人排斥デモの対応に追われ、苦渋の選択だった。
13日、香港の梁振英行政長官は「今回の方針変更は1年近く慎重に準備を進め、中国政府が英断したことに感謝する。変更の一因は一部の香港市民によるルール無視の抗議という非生産的な行動が行われていることにある」と述べた。今回の中国政府の措置は運び屋にとっては大きな影響はなく、逆に香港にとって打撃になるとの声が根強い。
昨年、香港政府の統計によると、中国本土から香港にマルチビザ(何度も訪問可能な特別許可査証)を使って訪問した人は約1500万人。昨年、週1回以上香港を訪問した深圳市民は全体の3割で延べ約459万人。今回の措置で影響を受ける深圳市民は460万人前後とみられる。上水を訪れた深圳市民らは「香港人は好きなだけ中国と往来できるのに、深圳市民にとっては今回の措置は差別以外の何物でもない」(香港ATVニュース)と不満をぶつけている。
財界系政党・自由党の田北俊立法会議員は「今回の措置で香港を複数回訪問する中国人観光客数は最大で3割減る可能性がある。1500万人を450万人ぐらいまで減らせれば、わが選挙区である新界東地区でのトラブルを軽減できるので歓迎するが、運び屋全体の6割が香港市民で4割が深圳市民という実情からみると、今回の措置では根本的な解決や効果を得られない」と香港政府の対応を憂慮している。
親政府派の葉劉淑儀立法会議員(新民党)も「思い切った措置だが、運び屋問題はなくならないどころか、むしろ香港住民に誘惑が強まる」と指摘。なぜなら、2、3回往来して1日当たり200香港㌦(1香港㌦=15円)稼げるからだ。「運び屋になる可能性があるのは、低所得層、退職者、公的扶助受給者、公営住宅に暮らす高齢者などだ」と指摘している。今後は、中国当局も香港市民の運び屋取り締まりを強化する動きだ。
中国では03年、個人旅行が解禁されて以降、中国から香港への訪問客は増え続け、昨年、香港を訪れた中国本土観光客数は約4724万人に上る。今回の抑制策で減るのはその約1割に当たる年間約460万人で、純粋な観光目的の中国本土観光客数は目減りし、依存を強める中国本土客による香港消費が頭打ちになれば、香港市民の不満は逆に強まることになる。
中国本土との依存を深める香港政府は昨年8月末に中央政府が決定した普通選挙に向けた政治体制改革案を6~7月にも立法会(議会=70議席)で通過させるため、反対票を投じると表明している民主派議員27人のうち約半数に香港ナンバー2の林鄭月娥政務官が15日から個別交渉して切り崩し工作を図っており、改革案否決阻止へのヤマ場を迎えている。