「日本で文字の発達が遅れたのはなぜか?」…
「日本で文字の発達が遅れたのはなぜか?」というのは、昔からの謎だった。その割には「こういう理由があったため」という説明が行われることは少なかった。
そんな中、「話し言葉で十分だったから遅れた」という仮説に接した。40年前の講義を基にした川瀬一馬著『日本文化史』(講談社学術文庫)という本の中に書かれている。
同質性の高い日本社会では、文字で記録しなくても事が進行した。必要がなかったから文字がなかった、という説明だ。あくまでも仮説で、本当の理由なぞ永遠に分からないのだが。
落合淳思著『殷』(中公新書・2015年)という本によると、中国では、殷時代の後期(3000年前)になって文字が現れた。亀の甲羅や動物の骨などに文字を刻んで、王の行動の是非を占った。が、王の政治の正統性を確認することが目的だったから、やらせや捏造も多かったという。
自身の権力の根拠を示す目的で使われたとすれば、文字(漢字)の発明そのものに特定の意図があったようにも見える。日本で文字が現れたのは、1500年ほど前。3000年前と1500年前の時間差を大きいと見るか、小さいと見るか。
文字のない文明は少ない。現に日本も、その後漢字を取り入れた。それにしても、文字がなくても何とかコミュニケーションが成り立っていた日本は、古代中国に比べれば幾分暢気な社会だったことは間違いなさそうだ。