不信煽るマスコミ 産経問題で和解促す声も

日韓国交正常化50年 「嫌韓」「反日」を越えて(10)

800

昨年11月27日、韓国のソウル中央地裁に入る産経新聞の加藤達也前ソウル支局長(中央)(AFP=時事)

 政治と共に日韓関係悪化の“主犯格”となってきたのがマスコミだ。日本では、以前はそれほど「嫌韓」感情が強くなかったが、近年は特に「韓国」「中国」をキーワードとする記事や番組が関心を集める。内容は相手国への批判である場合が多く、それを通じて読者、視聴者はナショナリズムを満足させている面が多分にある。

 一方、もともと民族意識が強く、日本による植民地統治を経験した韓国では、これまでにも増してマスコミ主導で第2次安倍政権誕生後の日本批判に拍車を掛けている。日本を「評価」する基準である歴史認識問題をめぐり、安倍政権が「韓国側を納得させる」対応をせず、ひたすら“右傾化”路線を突っ走っていると判断しているからだ。

 日本も韓国も国民の多くが相手国に好感を持てなくなっているのは、マスコミの影響によるところが極めて大きい。

 マスコミが伝える内容が実態を正確に反映したものであれば、それもやむを得ない。だが、時として事実に立脚しない内容だったり、誇張が含まれていたりする。相手国を批判する「結論ありき」の論法も少なくない。

 「これからの日韓関係を考えると、われわれのように相手国批判に終始していて良いはずはない。日韓協力の新しい時代を次世代に引き継いでもらうにはどうすればいいのか、そろそろ真剣に考える時だ」

 こう話すのは日韓協力論者の一人、韓国紙セゲイルボの姜浩遠論説室長だ。東京大学に留学経験のある姜室長も日本に対する不満はあるが、未来志向の必要性から「今後は日韓の編集幹部同士の交流をしたい」と語る。

 日韓の外交問題に発展した産経新聞前ソウル支局長のコラムをめぐる問題でも、双方の主張のいずれにも与(くみ)しない「第3の声」があったことはあまり知られていない。

 関係者によると、まだ韓国検察当局が前支局長を名誉毀損(きそん)罪で起訴する前、ソウル在住のある保守派日本人ジャーナリストが前支局長に対し、訴えた韓国市民団体側との事実上の和解を促し、問題を大きくすべきではないという趣旨の主張をしていたという。日韓間の懸案になることを予想し、落とし所を示したかったのだろうか。

 だが、結局、前支局長は起訴された上、出国禁止期間の延長という不当な処分を受けている。問題の長期化は双方のマスコミに相手国を批判する「ネタ」を提供し続けるという結果をもたらしている。

 日本のマスコミが保守系、左派系で韓国に対するスタンスに差が出るのとは対照的に、韓国の場合は保革区別なく「反日」一色だ。テレビのニュースではアナウンサーが安倍晋三首相を「アベ」と呼び捨てにすることもしばしばあり、自国民向けなら日本に最低限の礼儀も必要なしだ。

 また日本はマスコミのことを「報道機関」と呼ぶが、韓国は「言論機関」と呼ぶことも日韓マスコミ観の違いだろう。「言論」という言葉には、客観的事実を伝えるというより、主張したいことを相手にぶつけるというニュアンスがあり、主観的な伝え方を好む国民性を感じさせる。

 日韓マスコミが自らの特性を認識することは、未来志向を考える第一歩だ。マスコミが相手国への不信を煽(あお)ったということは、未来志向的発想を加味すれば、自ずとそうした不信感が弱まっていく可能性もあるということだろう。

(編集委員 上田勇実)