堅調な経済協力 対韓投資で「水平関係」

日韓国交正常化50年 「嫌韓」「反日」を越えて(6)

600 近年の日韓関係が政治でぎくしゃくした状態が続いている一方で、比較的堅調な関係を維持しているのが経済だ。財務省によると、韓国の李明博前大統領が竹島(韓国名・独島)を突如訪問したり、天皇陛下に事実上の謝罪を求める発言をした2012年、日韓間の貿易総額は8兆1500億円を記録し、04年以降の10年間で年度別規模は5番目だった。「反日」のイメージが日本側で広がっている朴槿恵大統領が就任した翌13年は、5年ぶりに9兆円台を回復している。

 また韓国産業通商資源省によれば、日本企業による対韓国直接投資額は12年に過去最高の45億5000万㌦(約5400億円)に達し、13年も2番目の規模だった。

 対韓投資増加の理由について、アジア経済研究所の渡辺雄一研究員はこう指摘する。

 「まずサムスン電子や現代自動車など世界市場で販売力のある韓国大企業向けの需要を取り込もうという日本企業が目立つ。また外食産業など韓国の消費市場の獲得を狙った動きもある」

 これまでの日韓経済は、恒常化する韓国の対日貿易赤字が示すように韓国が日本から部品や素材などを輸入し、これを基に組み立て・製造するという貿易中心の「垂直関係」が主流だった。しかし、近年は直接投資など日本企業が必要に迫られて韓国との協力を模索する「水平関係」も増え始めている。

 12年の進出事例を見ると、日本電産サンキョーが冷蔵庫用モータ駆動ユニットの開発・販売を手掛ける韓国SCDを買収したり、住友化学がハイブリッド車・電気自動車向けリチウムイオン二次電池の材料用高純度アルミナ製造設備を韓国全羅南道に新設したことなどがある。総じて生産ラインに従事する非正社員の安価な人件費や法人税の優遇措置、韓国が欧米諸国と結んだ自由貿易協定(FTA)に伴う関税引き下げメリットなどが日本企業にとって魅力になっているという。

 日韓関係悪化に“悪乗り”する一部の嫌韓本には、財閥系企業に売り上げや収益が集中していることを理由に「○○がこけたら韓国経済がこける」「没落する韓国経済との関係は仕切り直した方がいい」といった類の極論も見られる。

 だが、97年のアジア通貨危機のようにあらゆる企業が一斉に業績を悪化させ、消費や投資、輸出が一挙にマイナスに転じるような事態とは程遠い現段階では、そうした主張は現実味に欠けるというのが専門家の見方だ。

 ただ、日韓関係悪化が両国間のビジネス環境に微妙な影響を与えているのも事実だ。昨年末、経団連の榊原定征会長ら韓国訪問団は朴大統領と会談し、日韓首脳会談の早期実現を訴えた。

 「戦時徴用工裁判で日本企業に賠償命令を下した韓国司法の判断やコストアップにつながる賃金関連の大法院(最高裁判所)の判決などを負担に感じ、首脳会談をテコにこれらの改善を模索しようとしたのだろう」(渡辺研究員)

 関係者によると、日本とのビジネスに携わる韓国企業の多くは、大統領が強調する日本による歴史認識の“善処”に必ずしもこだわっているわけではなく、韓国の経済官僚たちも関係改善を望んでいる。だが、残念ながらそうした現場の声が政府を動かすまでには至っていない。

(編集委員 上田勇実)