死活問題の防衛協力 半島有事なら日本後方支援

日韓国交正常化50年 「嫌韓」「反日」を越えて(4)

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2011年11月、日韓捜索・救難共同訓練のため舞鶴へ寄港した韓国ヘリ搭載駆逐艦「ワンゴン」艦の許哲第72機動戦隊長(右)と握手する池太郎舞鶴地方総監部幕僚長(森啓造撮影)

 日韓が協力すべき分野のうち、恐らく最も死活的と言えるのが防衛だ。特に今なお南北軍事境界線で北朝鮮と対峙(たいじ)し、常に侵攻の恐れと背中合わせの韓国にとり、日本の防衛協力は極めて現実的な問題だ。

 「第2次韓国動乱のような事態が発生した場合、日本の後方支援がないと米軍は韓国を十分に助けることができない」

 元防衛庁情報本部長で現在、国家基本問題研究所の企画委員の一人、太田文雄氏はこう指摘する。

 米軍が半島有事で韓国を支援する際、そのほとんどは日本の港湾、空港を経由して戦力を投入する。だが、仮にこの時点で日本が「ノー」と言えば、米軍を主体とする国連軍が韓半島に戦力を投射できなくなってしまう。

 これは韓国動乱で立証済みの話だ。国連軍が韓国軍を支援した「仁川上陸作戦」に関する韓国の展示物を見ると、支援を示す矢印の出発点が日本になっていることが分かる。

 日本による後方支援としては、戦死者・傷病者を収容する病院の提供や敷設された機雷の掃海、北朝鮮やこれを支援する中国に関する偵察衛星情報の共有なども挙げられる。

 韓国はしばしば米韓同盟を根拠に米国から十分な北朝鮮情報の提供を受けていると説明する。しかし、実際には米国は情報提供先をシビアにランク付けしている。最も高いレベルの情報を共有する相手国として英国・カナダ・オーストラリアの3カ国、その次に高いレベルの情報提供国として日本・ドイツ・北大西洋条約機構(NATO)諸国をそれぞれ定めている。韓国は3番目のランクだ。

 そうした意味で、李明博前政権が締結を目指した日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が、韓国世論の反対に遭って締結直前でキャンセルされたのは、韓国の国益にとってマイナスだったと言えよう。

 日米間、米韓間では正常に稼働している軍事情報の交換が、日韓間ではできないため、例えば北朝鮮による長距離弾道ミサイル発射などの事態に対し、各国イージス艦同士のデータ共有に限界が出てくるのは必至である。

 自衛隊の韓半島展開という、およそあり得ないシナリオのみならず、韓国にとって日本との防衛協力を論じること自体、一種のタブーになっている。防衛を論じる時にさえ歴史認識問題が壁になることがある。韓国人にとっては「慰安婦問題解決が先で、GSOMIA締結はその後というのが率直な気持ち」(韓国情報機関系シンクタンク関係者)なのだ。

 だが、太田氏はこう言う。

 「私も現役時代、韓国軍幹部と密に連携していたし、幹部候補の学生も相互留学で同じ釜の飯を食っており、韓国は日本との防衛協力の必要性を十分過ぎるほど認識している」

 問題はそうした認識が韓国社会に広がらない点にある。

 「なぜ韓国の軍人たちは大統領府に日本との防衛協力の必要性を訴え、進言する人がいないかと思う」(太田氏)

 思惑の違いから日韓が防衛協力の体制を固めきれない間隙(かんげき)を突き、中国が海洋進出を露骨に推し進めている。米国の溜め息が聞こえてきそうだ。

 (編集委員 上田勇実)