「腹に入らない」という言葉が骨董商の…
「腹に入らない」という言葉が骨董商の間ではあるという。テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」で知られる中島誠之助さんが『真贋のカチマケ』(二見書房)という本の中で紹介している。贋作に接した時の「しっくりこない」感覚を表現する用語だ。
素人には分からないが、分かる者には分かる。道の向こうに置かれていても一瞬で見分けられる。贋作は、何とも言えない嫌な感じがするのだそうだ。
中島氏も、若いころは失敗も多かった。プロでも客の家では、自分の店で鑑定するよりもよく見えてしまうものらしい。その家が持つ背景が影響するのでは?と中島氏は自戒している。
骨董商の場合、見立ての間違いは金銭的損失を伴う。学者や評論家も美術の専門家だが、作品を評価する際に損得が生まれることはない。陶芸家加藤唐九郎が仕掛けた「永仁の壺事件」(1960年)は、世の中をからかってやりたかったのが動機だとされる。文化財保護委員会調査官で、この道の権威だった小山富士夫も見事騙されてしまった。
94~95年の画家佐伯祐三贋作事件では、学者たちは真作、骨董商らは贋作を主張し一時紛糾したが、最終的には贋物と認定された。
無論骨董商も商売である以上、キレイ事ばかりではすまない。その種のエピソードもこの本には紹介されている。が、学者とは違った方向から作品に対峙する厳しい姿は、この本からは確かに伝わってくる。