古代と中世の文学について書き綴ってきた…


 古代と中世の文学について書き綴(つづ)ってきた文芸評論家の唐木順三が、晩年になって興味を持つようになったのは『あづまみちのく』だった。そこには奈良・京都の「みやび」文化に対する「ひな」文化があったからだ。

 「ひな」とは、みやこ人から見て辺境とされた土地の素朴で野性的な暮らしぶりのこと。「ひな」を訪ねる旅を重ねて行きついたのは東北地方だった。その土地の仏像にもみやこにはない魅力があることを知る。

 東京・上野の東京国立博物館で「みちのくの仏像」が開かれている。東北6県の代表的仏像が結集し、「東北の三大薬師」と称される黒石寺(岩手)、双林寺(宮城)、勝常寺(福島)の薬師如来像も会している。

 数年前の夏、福島県の会津盆地にある勝常寺を訪ねたことがあった。周囲は田や畑で、道脇の水路には小魚が群れていた。磐梯山が東にそびえている。807年の創建で、山門は風雪にさらされて風化していた。

 本堂の薬師堂は室町初期の寄棟造りで、軒先がわずかにそって気品があった。だが、宝物殿は扉が閉まったままで薬師如来坐像は拝観できなかった。今回、この坐像に初めて対面することになった。

 展示会場の中心に据えられて「東北の仏教文化の原点を伝える国宝」と紹介されていた。堂々たる体躯(たいく)とふくよかな面立ちが特徴だ。会場を巡ると東北地方の木の文化と厳しい大自然が迫ってくるようであった。