高齢化社会を迎え、ものづくりの世界にも…
高齢化社会を迎え、ものづくりの世界にも80~90歳代の現役がいる。「世界の名器」と言われる寺垣プレーヤーや寺垣スピーカーを発明した寺垣武さんは91歳だ。
長年、その名器の視聴会や講演活動を続けてきたが、4年前に夫唱婦随の夫人を亡くした。空白期間があった後、昨年「寺垣武 音を視る会~最終章~」を東京都調布市のせんがわ劇場で開いた。
内輪の会としたが口コミで伝わり、当日は小さな会場に熱狂的な寺垣ファン約120人が詰めかけ本人や関係者らを驚かせた。今年も視聴会の開催要請があり「やめるためにやったが、中途半端(なメッセージ)になってしまった」という。
戦後、寺垣さんは日本電気嘱託時代に、潜水艦探知機や誘導弾ジャイロ試験装置などを相次いで開発し脚光を浴びた。その後、原音再生技術の研究に心を砕き、世界最高性能のプレーヤーやスピーカーを発明。「論理を極めれば、芸術が浮かび上がる」が持論。
森谷正規・元LCA大学院大学副学長はある会合で「寺垣さんは物理学を使いこなす達人。物の理に乗って生活しているので極めて健康」と話した。材料に凝り、繊細な物理を自分のものにした。
技術者から演奏家、歌手、棋士など、寺垣研究所への訪問者は多く、ある演奏家はその名器に「自分が実際演奏している時に、耳に入ってくる音だ」と漏らした。ぜひ後進への技術継承を望みたい。