「冬薔薇(そうび)一輪剪(き)りていと小さし」…


 「冬薔薇(そうび)一輪剪(き)りていと小さし」(山下さぎり)。近所の公園をそぞろ歩きしていたら、葉を落とした桜の樹の下に赤いバラがところどころに咲いているのを見かけた。灌木(かんぼく)の葉に囲まれているので、目を凝らして見ないと分からないほど。

 歳時記では「寒薔薇(かんばら)」「冬ばら」とも言うらしい。フラワーショップなどでは年中、美しい色彩の花が多く見られるが、これは人工的に栽培したもので季節とはあまり関係がない。自然の中では、冬に咲く花はそんなにないだろうと思って調べてみたら、案外多いので驚いた。

 「アセビ」「アネモネ」「アロエ」「ウメ」「カトレア」「カンツバキ」「コチョウラン」「サザンカ」「シクラメン」「パンジー」「ラッパスイセン」など。名前を知っていても、実際の姿を見たことがないものもある。

 逆によく見ていても、その名前を知らない場合もある。きれいな花と思っても、それだけで終わる。名前が分からないというのは、考えれば寂しいものだ。

 日本人は、季節ごとに野山に生えたものを摘み取って食卓に供したり、花見や野遊びなどをしたりして楽しんできた。草花は季節を告げる便りであり、旬の食材であり、生活に彩りや潤いを与えるものだった。

 その意味では、小さな赤いバラであっても変わらない。冬の灰色の空の下、一点、華やかな雰囲気を与えてくれるからだ。バラの次に何が咲くのか、今から少し心がときめいている。