共同通信の自民3分の2超など衆院選予測が与えたアナウンス効果

◆「お任せ」低投票率に

 先の総選挙の結果は、有権者が安倍政権の2年間を評価し、引き続き安倍首相に信を託したということだろう。

 毎日は投票率が52%の戦後最低だったことをもって「わが国はかつて政党政治が機能不全を来し、やがて戦争への道を歩んだ苦い歴史がある。野党が頼りにならなければ、自民党政権が行き詰まった時に政治が誤った方向に走りかねない。戦後最低の投票率はそれほどに危うい」と言ったが(15日付社説)、低投票率から戦争を想像するのは妄想に近い。どこまで安倍政権と「戦争」を結びつけたら気が済むのか。

 杉田敦・法政大学教授は「お任せでいいという消費者に、商品を選びに店に足を運ぶべきだと説いても、通じにくい」(朝日21日付)と低投票率を解説している。有権者は安倍政権に「お任せ」したというわけだ。

 これまでの経験則では、有権者が現政権を支持し、その政権が選挙で勝ちそうだと思われた場合、投票率が下がりがちだ。これは知事選でよく見られる。低投票率は必ずしも有権者の無関心の表れではなく、現状維持、現政権支持の証しという側面もある。

 これに対して高投票率となるのはポピュリズム的な選挙(例えば2005年の郵政解散)や政権批判が高まり、有権者が変化や政権交代を望んだときに多い。郵政選挙は67%、民主党が政権を奪取した09年は69%だった。

 低投票率の責任の一端は新聞にもある。事前予測報道で「与党圧勝」の文字を躍らせたからだ。それで安心して投票所に足を運ばなかった与党支持者もいれば、投票しても死票になると意欲をそがれた野党支持者もいたはずだ。

◆共同予測報じる県紙

 事前予測報道は「アナウンス効果」が問題視される。アナウンス効果とは、予測報道を受け有権者の投票行動が変化することを言い、「寄らば大樹型」(勝ち馬に乗る)と「判官びいき型」(劣勢側を助ける)がある。いずれも選挙結果を左右する。

 今回、新聞はそろって「与党 3分の2超す勢い」(毎日8日付)と与党圧勝の予測を流した。毎日は自民の推定当選者数は303~320(小選挙区229~241、比例74~79)。産経は「自民単独で3分の2迫る」(9日付)とし、比例で「前回(57議席)を大幅に上回る80議席が射程に入った」と予測した。

 とりわけ全国的に影響を与えたのが共同通信だ。地方で圧倒的に購読率が高い県紙はほぼすべて共同の事前予測を大きく報じたからだ。3日配信(4日付)の「各党の推定獲得議席数」では自民320+14-15と、3分の2(317)を上回る320の衝撃的な数字をはじき出した。内訳は小選挙区238+9-10、比例代表82±5だった。

 さらに9日配信(地方紙10日付)でも「自民単独 3分の2も」(沖縄タイムス)と続けた。自民は「240近い選挙区で優勢を保ち、比例(定数180)でも党として過去最多の77を超える議席が視野に入る」とした。

 だが、いずれの予測も大外れだった。自民が獲得したのは291で小選挙区223、比例68にとどまった。毎日の下限は303(小選挙区229、比例74)、共同の下限は305(同228、同77)だから、結果は全て想定を下回った。自民支持者は安堵(あんど)して投票に行かず、一方で自民単独で3分の2は勝たせすぎだと考え野党に投じた有権者もいたのではないか。とすれば、アナウンス効果だ。

◆逆バネが利いた維新

 維新の場合、逆バネが利いたようだ。共同は比例で20議席台、選挙区は1桁とし、産経は25議席前後、毎日は小選挙区で4~5議席、比例代表で20議席前後とした。結果は41(小選挙区11、比例30)とほぼ現状を維持した。事前予測は見事に外れた。

 ちなみにNHKの世論調査(1日放送)は各党の支持率を自民41・7%、民主9・6%、維新1・9%、公明5・3%、共産3・5%などとし、維新が異様なまでに低かった。比例の結果は、維新15・7%で自民33・1%、民主18・3%に次ぎ、公明13・7%と共産11・4%を凌駕(りょうが)した。選挙戦での変化もあろうが、それにしても世論調査は怪しい。

 とまれ新聞の予測報道は投票率にも選挙結果にも影響を与えており、問題が多すぎる。