“批判”のち“エール”が大半の筋 朝日新聞 大虚報の“ツケ”(中)

社長謝罪後の朝日「声」のページ

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木村伊量社長のおわびを掲載した9月12日の朝日新聞第1面と、慰安婦虚報などで読者の声を掲載したオピニオンページ

 朝日新聞は9月11日夜に、「吉田調書」記事への「説明の場を設け」るとして行った緊急記者会見で、木村伊量(ただかず)社長が吉田調書報道の誤りを認めて5月20日の当該記事を取り消し読者と東電関係者に謝罪した。ついでに8月5、6日の検証特集で、「慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏(故人)の証言に基づく16本の記事について、証言は虚偽と判断して取り消したが、このときにしなかった謝罪と、訂正が著しく遅れたことを初めて読者にお詫びした。

 社長会見の翌々日の13日から、朝日新聞の社説が掲載されるオピニオンページに併載される「声」(読者の投書欄)に、二つの虚報・誤報などに対する意見が載るようになった。

 担当者はその内容について「朝日新聞の一連の問題に対し、『声』に寄せられた投稿は千通を超えています。多くは厳しい批判です」(「声」編集長 小森保良、朝日18日「声」特集版から)と記している。そこには週刊誌や月刊誌の痛烈な朝日批判と似た意見もある。

 例えば、朝日がずーっと言われ続けてきた偏向記事、紙面への言及である。「慰安婦問題を巡る記事や福島第一原発事故の吉田調書を巡る記事など、いずれも共通しているのは、初めに結論ありきの裏付けのない報道だったと思われることだ」(13日、埼玉県・主婦62)。

 滋賀県の高校生(17)は、吉田調書の誤報について「あの記事は最初から『相手を批判し、揚げ足を取ってやろう』という目的ありきで書いたのではないかと疑わざるをえない」「そもそも、こうして吉田調書が公表されれば、誤報であることが明るみに出る。そのことに、なぜ頭が回らなかったのだろうか」(14日)と批判。50年購読の愛読者は「自分たちに都合のよい解釈をして、あたかもそれが事実であったかのような書き方は、ジャーナリズムとは言えません」「今回の一連の問題は、単に誤報、判断ミスという以上に、報道姿勢を巡る深刻な問題を含んでいると思います」(14日・茨城県、無職67)と迫るのである。

 木村伊量社長の謝罪が心に響かないという30年以上の愛読者(千葉県、主夫57)の声も。「紙面でも社長会見でも謝罪の言葉はあっても、言い訳ばかりで、心から謝っているように思えないのです」「(慰安婦特集記事には)謝っているようで謝っておらず、正当化ともとれる言い訳が多かったから」(15日)違和感を覚えたという。

 こうした文脈だけを丹念に拾っていくと、これら大概の批判は特に雑誌メディアなどで指摘されてきたことだが、それらを「反朝日キャンペーン」とのレッテル貼りではねのけてきた朝日が採用したことで期待をかけるかもしれない。

 「声」欄は13日から20日までに、二つの虚報・誤報問題をテーマにした投稿を13日5本、14日5本、15日1本、18日8本、20日3本と合計22本が掲載された。このうち、今回の不祥事で購読をやめると明言したのが2人、いったんは購読中止を思ったが今しばらく猶予や思い直した人が3人である。

 だが、厳しい批判を最後まで貫いているのは前記の高校生のものなどわずか。大半は批判のあと「怒りは禁じ得ないが、しっかり検証し、再発防止を講じ、一刻も早く再生してほしい」(13日、栃木県、無職63)というようにエールで結ぶもので、猛烈な批判をかわすのに役立てている。なかには「多方面から『朝日バッシング』が激しさを増す中で、事実を正確に伝え、権力を監視する新聞の原点を忘れないでもらいたい」(14日・愛知県、大学名誉教授65)など熱いエールも何本かある。

 不思議なのは千本からの投稿があり、踏み込んだ批判も掲載されているのに、慰安婦虚報で国際社会に「性奴隷」などの表現で間違ったイメージを拡散された問題を追及した投稿が一つも掲載されていないことである。

(編集委員・堀本和博、片上晴彦)