「辞書閉ぢて音の重さや秋灯下」(水本みつ子)…


 「辞書閉ぢて音の重さや秋灯下」(水本みつ子)。秋は読書の季節だが、残暑が続いているので気が早いと言われそうだ。

 「読書週間」が10月下旬からになっていることもある。この読書週間は昔からの習慣ではなく、過ごしやすい秋の気候がそれにふさわしいということで始められたもの。

 読書週間を主催している読書推進運動協議会によれば、終戦直後に出版社や図書館、取次、書店などの文化関連団体約30が「新生日本を文化国家に」という合言葉で実施したのが最初だ。

 ただ、秋と読書を結び付けたのは、中国の唐時代の詩人・韓愈だという説がある。読書の秋に関する常套(じょうとう)的な表現である「灯火親しむべし」「秋灯」などは、韓愈の詩句にある「灯火ようやく親しむ可(べ)く」から来ている。

 物故した作家の司馬遼太郎や松本清張らは国民的作家と言われていたが、これも時代とともに変わっている。明治時代であれば夏目漱石や森鴎外だろうし、『宮本武蔵』を書いた吉川英治も忘れることができない。小説も時代の思潮とは無縁ではないが、特に英雄として描かれた司馬の『竜馬がゆく』の坂本龍馬と吉川の宮本武蔵の造形には、それが反映されている。

 司馬の龍馬が戦後日本を象徴する時代の変革を促す革命児だとすれば、吉川の武蔵は戦前・戦中の時代の中で求道者として描かれていると言っていい。その吉川は昭和37(1962)年のきょう、亡くなっている。