ロシアとウクライナ、東部の恒久的停戦で合意

 ロシアのプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領は3日、電話会談を行い、ウクライナ東部ドンバス地方での恒久的停戦で合意した。欧米の対露経済制裁に対し、欧米からの食料品輸入禁止という報復制裁を打ち出すなど、ロシアは強気な姿勢を貫いてきた。プーチン政権の支持率も極めて高い水準で推移しているものの、国際社会での孤立に加え、欧米金融市場での資金調達禁止措置などがロシア経済に影響を与えつつあった。ロシアの支援により親露派が攻勢に出たことを背景に、プーチン大統領は早期の問題解決に動いた形だ。(モスクワ支局)

欧米追加経済制裁の影響懸念か

金融・軍事への打撃警戒する露

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ロシアのプーチン大統領(左)とウクライナのポロシェンコ大統領(AFP=時事)

 政府軍の攻勢を受け、ウクライナ東部の主要拠点を奪還されるなど、分離派の親ロシア勢力は劣勢に立たされていたが、ロシアの支援で戦力を回復し、巻き返しに転じた。北大西洋条約機構(NATO)の情報によると、1000人を超すロシア軍部隊がウクライナ領内に侵入。親露派「ドネツク人民共和国」最高幹部は、ロシア兵3000人以上が、政府軍との戦闘に参加していると語った。

 親露派の攻勢を背景にロシアのプーチン大統領は31日、国営テレビのインタビューで、ウクライナ東部のロシア系住民の保護のため、同国東部の「政治組織や国家としての地位についても議論すべきだ」と発言した。

 これまでロシアは、ウクライナの連邦化を主張してきた。親露派住民の多い東部地域に大幅な自治権を与えることで、ウクライナの欧米志向に足かせをはめることが目的である。プーチン大統領の「国家」発言は、「連邦化」のさらに上を行く要求を行うと示唆したことになる。

 当然、ロシアに対する欧米の姿勢は一段と硬化した。オバマ米大統領は、ウクライナへの介入を拡大させているとロシアを非難し、「追加的措置を取る」と述べて対露経済制裁の強化を警告した。欧州連合(EU)も30日の首脳会議で、「ウクライナ領内でのロシア軍による攻撃」を非難すると統括文書に明記、対ロシア追加制裁案を今週にもまとめることを決めた。

 しかし、欧州が天然ガス供給の約30%をロシアに依存し、対露制裁の影響が自らに跳ね返ることを恐れていることに変わりはない。欧米の対露制裁に対し、ロシアが欧米からの食料品輸入禁止という報復制裁を実施したが、ロシアに多くの農産物を輸出してきたEU諸国にとってダメージは大きい。

 米国にとっても、ロシアとの対立が、ロシアと中国の関係強化をもたらすことは避けたいところだ。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟方針に対し、米国家安全保障会議(NSC)のカプチャン欧州上級部長が「扉は開かれている」と述べ、要請があれば議論に応じる構えを示したが、どこまで本気か疑問だ。

 一方で、ロシアは強気の姿勢を崩していないが、欧米の経済制裁の影響に強い懸念を抱いていることに変わりはない。

 米国とEUは7月のウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件を受け、エネルギー、金融、軍事というロシアの基幹産業を標的とした制裁に踏み切った。これに対しロシアは8月7日、欧米からの食料品禁輸という報復制裁を発表し、実施に踏み切った。

 ロシアは穀物についてはほぼ自給しているが、食料品全体では約4割を輸入で賄っている。インフレも進んでおり、食料品禁輸は市民生活に大きな影響を与える可能性が指摘されたが、これまでのところ影響は軽微だ。かえって国内農業の復興につながるとして、国民の支持も広がっていた。

 報復制裁を支持する専門家、コメンテーターらは、「ロシアは広大な国土を有しており、自活が可能だ」とする。ロシアのマスコミ・言論界ではこのような強気な主張が幅を利かせているが、冷静な意見がないわけではない。著名な政治・歴史学者でモスクワ国際関係大学教授のワレーリー・ソロヴェイ氏は、次のようにロシア包囲網の形成を警戒する。

 「もし米国が忍耐強さを発揮するならば、対ロシア統一戦線を形成するだろう。米国以外にEU,日本、韓国など世界の主要国が加わり、ロシアは大きな打撃を受けることになる」

 実際、専門家の見方では、ロシアの欧米食料品禁輸の影響が市民生活に大きな影響を与えるようになるのは半年から1年後。市民の間に不満が広がれば、プーチン政権の足元は大きく揺らぐ。

 さらに、ロシアが最も警戒しているのは、金融、軍事や先端技術分野の制裁強化だ。欧米が、ロシアの国営銀行による欧米資本市場での資本調達を禁止したことで、ロシア経済に悪影響を与えつつある。これまでロシアが最も安く資金調達をすることができたのは、米国の資本市場だった。

 また、ロシアへの武器ならびに軍事転用が可能な民間用機器の輸出禁止措置も、ロシアに大きな影響を与える。ロシアは武器や軍事転用が可能な技術・部品を欧米から購入しており、その国産化には長い年月と多くの費用が必要となる。欧米の対露追加制裁への警戒感は極めて強い。

 プーチン大統領とポロシェンコ大統領はウクライナ東部の恒久的停戦で合意したものの、親露派武装集団の武装解除のやり方など、停戦に向けた具体的なプロセスは明らかにされていない。今後の展開も不透明な部分が残るが、事態は大きく動き出した。