抑留経験のある元教師が「罪と罰」を翻訳


「諦めない心」若者に、ロシア語を学び直し88歳で出版

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シベリア抑留中に覚えたロシア語を生かして「罪と罰」を翻訳、自費出版した神馬文男さん=札幌市厚別区の自宅

 終戦後、過酷なシベリア抑留を体験した札幌市在住の元教師神馬文男さん(88)が、抑留中に覚えたロシア語を退職後に学び直し、約5年半をかけてドストエフスキーの大作「罪と罰」を翻訳、このほど自費出版にこぎ着けた。中高生でも読みやすく工夫を凝らした内容で、神馬さんは「何度も挫折しそうになったが続けてよかった。若い人に読んでもらい、諦めない心を伝えたい」と話している。

 海軍の飛行士だった神馬さんは、19歳だった終戦直前の海上墜落事故で奇跡的に助かり、朝鮮半島の基地にたどり着いた1945年8月20日、敗戦を知った。2日後、「日本に帰る」とだまされて旧ソ連軍に拘束され、同年11月にシベリアへ連行された。

 「毎日死を意識していた」という2年間の抑留生活で思い出すのは、飢えと寒さ、炭坑などでの重労働。夏服のまま連行され、極寒と絶望で多くの仲間が亡くなる中、「帰りたい」という強い思いが命を支えた。

 帰国後、北海道内の中学、高校などで社会科を教えた神馬さんは、退職後に改めてロシア語を勉強。80歳を過ぎてから翻訳に取り掛かり、約600ページの本を完成させた。原書のコピーをノートに少しずつ貼り付け、1行ずつ丁寧に翻訳。中学生でも読めるよう仮名を振り、場面によって変わる登場人物の呼び名に注意書きを付けるなどした。

 理不尽な抑留体験を踏まえ、「日本を強い国にしてほしい」と訴える神馬さん。ただし、「殺し合いは絶対に駄目。鉄砲ではなく、科学や医療などで世界をリードする人材を育てるべきだ」と強調する。そのためにも、中高生らに「最後まで続ける意志」を学んでもらいたいと願っている。