牛の放牧、低コストで脚光を浴び始める
離農の抑制にも期待かかる、放牧で山や田畑がよみがえる
牛を牧場に放し、自由に牧草を食べさせる-。環太平洋連携協定(TPP)で牛肉や乳製品の自由化が議論される中、放牧が脚光を浴び始めている。牛の世話をする手間が省ける分、コスト抑制が可能で、牛もストレスが少なく病気にかかりにくいといった利点が注目され、離農の抑制にも期待がかかっている。
日本の畜産、酪農は近年、人手不足、飼料代の上昇、外国産牛肉との競争により、牛舎内でトウモロコシを原料とする配合飼料などを与えて飼育する従来の経営が行き詰まり、後継者難に陥っている。放牧により、こうした問題を解決できる可能性がある。
西日本や東北地方の山間部では、農家を自治体や大学などがバックアップし、肉牛を繁殖させ子牛を出荷する取り組みが各地で実を結んでいる。
大分県豊後高田市の放牧農家グループ「西高の農地を守る放牧の会」の代表を務める永松英治さんは、耕作放棄地などに牧草を生やし約20頭の親牛を飼い、年約20頭の子牛を出荷している。生産コストは子牛1頭当たり20万円以下で、全国平均の約40万円を大きく下回る。
永松さんは「荒れた山や田畑が放牧でよみがえった。離農も食い止められるかもしれない」と夢を語る。
北海道では酪農に放牧を取り入れる試みが盛んだ。酪農家のグループ「足寄町放牧酪農研究会」で会長を務める吉川友二さんは本場のニュージーランドで経験を積み、牧草の成長時期に合わせて牛乳の生産を行うなどの工夫を重ねている。