家族崩壊を「多様化」と表現し未婚の母のマイナス面触れぬ「クロ現」

◆ごまかしのある表現

 「ジェンダー・フリー」という、男女の性差を否定する思想が持て囃された10年ほど前、犬を家族と思う人がいるのだから、誰を家族と思うかは人によってさまざまだ、という趣旨のことを書いた“子育て小冊子”が、文部科学省の嘱託事業で出版されたことがあった。確かに、ペットを家族同様に可愛がる人はいる。しかし、それは個人の「心の問題」の範疇にとどめるべきテーマで、家族制度と絡めて語ることには飛躍があり過ぎた。

 そればかりか、その小冊子には「同性愛の人々にとって同性を愛するということは『当たり前』の選択」なんてことも書いてあったのだから、当時、この小冊子には家族制度を崩壊させようとの底意がある、と強い批判が巻き起こった。

 「家族とは? 親子とは? 揺らぐ法制度」をテーマに放送したNHK「クローズアップ現代」(9月30日放送)を見た時も、同じような違和感を覚えた。今月初め、結婚していない男女間に生まれた、いわゆる「婚外子」の遺産相続分を夫婦間の子の半分と定めた民法の規定は「憲法違反」との最高裁判決が出た。それに加えて、夫以外の第三者の精子提供を受けた出産が増えていることなどから、番組は家族制度の在り方を問う、という触れ込みだった。

 どこに違和感を持ったかというと、その一つは、番組が事実婚やシングルマザーが増加していることを「家族の多様化」と表現したことだ。シングルマザーの中には、夫と死別した気の毒なケースもあるが、未婚の出産や、妻子ある男性との不倫で出産した女性も少なくない。要するに、倫理観の欠如から起きる家族の崩壊を「多様化」とごまかし、結果としてそれは家族崩壊を煽ることになるのだ。

◆行き過ぎたわがまま

 もう一つ、底意を感じたのは、シングルマザーの言い分を多く伝え、そのマイナス面について言及しなかったことだ。例えば、ある女性は「結婚ありきの子供とか、男女はこうあるべきだみたいな概念とか、そういう時代は終わったんじゃないかな」と言っている。

 別の女性は、未婚で出産した場合に寡婦控除がないことについて「親の婚姻歴がなかったことのペナルティーを、子供に押しつけるのはおかしな話だ」と述べていた。いずれも子供のことを思っての発言なのだろうが、子供に不利益が及ぶような選択をした自分の責任を棚に上げた言い分は、わがままとしか思えなかった。

 シングルマザーの増加が財政逼迫の一因になっている国もある。その一方で、婚姻制度を守ることは子供の幸せのためでもある。この点をもっと追うべきだったが、番組は法律婚を重視する立場の識者の発言をわずかに紹介しただけだ。埼玉大学名誉教授の長谷川三千子の次のような主張だ。

 「法律婚がなぜ大事かというと、家族に属している人たちをいろんな形で保護するという、そういうものが法律上なくなると、社会全体にとって非常に不安な状況になる」。この意見こそ傾聴に値するものだろう。

 最後に、性同一性障害で女性から男性に性別を変更した「夫」と妻のケースを紹介したが、これで筆者の違和感はマックスに達してしまった。妻は第三者から精子提供を受けて出産したが、その子供と夫には血のつながりがないことから「父子関係」を認めないとの判決が出た。実の親子でないのだから、当たり前の判決と言うべきだが、夫は「すごく悲しい。今も本当の家族ですが、きちんと家族として扱われたい」と納得しなかった。

 血縁関係がないことは動かし難い事実で、その事実を基に「父子」と認めないというのは制度を守るためには当然のこと。それでも、子供を心から愛し「自分の子供だ」と思っているのであればそれでいいはず。しかし、血がつながった父子とつながらない「父子」を全く同じにせよ、と制度の変更を求めるのは無理筋の話。「同性同士でも“夫婦”と思うカップルがいるのだから、同性婚を認めよ」と主張するのと、同じ論法だ。

◆変えてならぬ認識を

 ゲスト出演した早稲田大学教授の棚村政行は「法制度が時代に合わなくなったら、それに応じて見直しを考えることは必要」と言った。しかし、「不易流行」という言葉があるように、人間の制度には変えていいものと変えてはならないものがある。公共放送のNHKには、変えてはならない最たるものは家族制度だという認識を持つべきなのである。(敬称略)

(森田清策)