老人を救って犠牲になった娘と父親の気持ちを詳報した「朝ズバ!」

◆行為美化しない父親

 みのもんた氏が、番組を降りたことで話題を呼んでいる「朝ズバ!」(TBS)が2日、横浜市緑区で起きた踏切での人助けのニュースを詳報していた。

 これは、踏切で急にうずくまってしまった老人(74)を助けようと、村田奈津恵さん(40)が自分の命を身代わりにして助けた美談である。

 筆者はその前日、簡単にニュースで聞いただけだったので、同番組で詳しい経緯を知ることができ、その女性の行動に感服するとともに、娘が自分の眼前ではねられていくのを見ていながら、報道陣に気丈夫に受け答えをしていたお父さんの恵弘さん(67)にも感銘を受けた。

 事故は、この父と娘が車に乗り、踏切で電車通過待ちをしていたところ、反対側から老人が踏切に入って、線路にしゃがみ込んでしまったのを見て、娘の奈津恵さんが「助けなきゃ」と言って車から飛び出し、老人を抱き起こしたところを電車が通過。鎖骨を折ったものの老人は助かり、奈津恵さんは即死したというものだ。

 父親が、奈津恵さんの勤め先でもある自分の会社に向かう途中に起きた突発的な出来事だった。

 恵弘さんによると、奈津恵さんが車を降りてはねられるまで、6~7秒ほどだったという。お父さんは「もう遅い、間に合わない!」と叫んだというが、奈津恵さんは飛び出して行ってしまった。

 救急車がやってきたが、運んで行ったのは老人だけだったという。その娘がはねられるシーンを父親がどう見ていたのかについて、「朝ズバ!」は聞いていた。

 しばらく考えていたが、恵弘さんは「自分より、先に死んでほしくはなかった」と、自分の気持ちを率直に語っていた。娘の行為を美化するのでもなく、素直にカメラの前で思いを語っていた。

 母親はカメラに登場しなかったが、報道用に使われた犬を抱いた奈津恵さんの写真を選んだのだという。

 愛犬を抱擁したもので、温かな心の持ち主であるのがよく表れた写真だった。

 現場には、彼女を追悼する花が自然と置かれ始めていた。事故が起きたのは昼前だったが、取材陣は、暗くなって花を手向ける通行人にも取材。

 ある30歳前後の女性は、「自分は、到底そうした人を助けるような行動はできない。ただただ、安らかに眠ってほしいと思うだけです」と語っていた。

◆みの親子と対照的?

 これまで番組司会を務めてきたみの氏が、息子の不祥事で降板した「朝ズバ!」。

 週刊誌で報じられる限り、みの氏や息子の姿勢は、今回の父子の行動とは対照的といえる。そうしたニュースを、同番組が詳報したというのも印象的なことだ。

 このニュースから2001年、山手線の新大久保駅で、線路に落ちた男性を助けに飛び降りて犠牲となった人たちのことが思い出される。

 この時、線路に落ちたのは酔っ払いだった。残念ながら、この救命劇では、助けに入った韓国人留学生の李秀賢さん、日本人カメラマンの関根史郎さんを含め3人とも亡くなった。

 今回の老人の行動も、今後の調べを待たなければならないが、自殺願望ではなかったのかと思えるような奇妙な部分もあった。それでも、今回の出来事は、人間が、たとえ赤の他人でもそのままでは電車に轢死されると思えば、静観していることはできないということを示した。

◆人間の行為の高貴さ

 人生とはままならないものである。少しでも救出する可能性があると思えば自分の命のことは考えないで助けに飛び込んでしまう。そうした、高貴な行為をするのが人間でもある。

 父親の恵弘さんは、こらえきれないほど悲しみがあるだろうに、それを抑えて取材に応じていた。その自然な受け答えにより、同番組は、この出来事を、深みを持たせ異例の長さで報じることができた。

 そのお父さんの心持ちにより、娘の勇気ある行動が、全国ネットの電波に乗って多くの視聴者に伝わったのは間違いない。

(山本 彰)