人生100年時代の到来に備え「ライフシフト」を提唱する東洋経済

人ごみの中を歩く男性のイメージ

三つの無形資産必要
 少子高齢化で人口減少が加速化する中、岸田文雄首相は就任直後から「成長と分配の好循環を生む新しい資本主義」を掲げた。ただ、具体的な姿が見えない中で国民は新しい国の形を探っている。一方、新型コロナ禍で多くの人の生活様式は大きく変化した。リモートによるテレワーク勤務やオンラインによる学校教育などは最たるものだろう。社会環境の変化に伴って個々人のライフスタイルも変化していくものだが、人生100年時代と言われる中でより有意義な価値ある生き方を求める人が増えている。

 そうした中で週刊東洋経済(1月15日号)が「ライフシフト超入門」と題してロングライフに向けた特集を組んだ。一昔前まで日本人のモデル的な人生パターンは終身雇用制度を中心としたライフスタイルであった。しかしながらバブル経済が崩壊し始めた頃から企業は同制度に終止符を打ち、雇用形態を変化させていった。非正規雇用の拡大、能力・成果中心主義を採ることで所得格差が拡大し、社会に歪(ひず)みが生まれ始めたのである。

 東洋経済は結論として、近い将来到来するであろう100年人生に備えよと言う。同誌は『ライフシフト』の著者である英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授を登場させ、100年時代の生き方について説く。「長生きのための計画を立てることを勧めたい。50代に入ったらすぐに、いや、もっと早くから、どうすれば歳をとっても生産的なキャリアを送れるか考えるべきだ」と同教授は語る。

 これまでは多くの日本人に見られたような「一流大学」に入り、「一流企業」に就職して、60代で定年、引退して人生を終えるというロールモデルから、生涯にわたって自己の活躍の場を複数構築しながら生きるマルチステージの人生を送るべきだというわけだが、そのためには三つの無形資産が必要になるという。

 すなわち無形資産とは、①収入を得るためのスキルと知識、仕事の仲間や評判といった生産性資産②バランスの取れた生活、家族・友人との良好な関係、肉体的・精神的な健康といった活力資産③社会の変化に対応し、新しいステージへの移行を成功させる意思と能力の変身資産―の三つである。

八ヶ岳型連峰主義へ

 また、英ロンドン・ビジネススクールのアンドリュー・スコット教授は、政府へ対応を求める。労働力の減少で低成長経済は避けられないことから「(高齢者を含め)多くの人々が労働市場に参加するようにし、また長い期間、生産的に働けるようにすることだ。若い人を含めすべての人が上手に老いられるよう経済の仕組みを整えることだ」と指摘する。

 今回の特集には、日本人の学者や作家も登場しているが、その中で『60歳からの教科書』の著者である藤原和博氏は人生を登山に例え、「これからは、『富士山型一山主義』の人生観から脱却し、『八ヶ岳型連峰主義』の人生へと変更するべきだ」と、自著の中で述べてきた。「八ヶ岳型連峰主義とは、富士山のような1つの大きな山を登るだけで人生を終えるのではなく、幾つもの連なった山を縦走するような生き方のことだ」と説く。

 もっとも、「一つ目の山を登り切って下り坂になったとき、次に登るべき山は向こう側から勝手に現れてくるわけではない。今メインの山として登っている間に自分自身の手でつくっておく必要がある」とも語る。

自己のスキルを磨く

 もちろん、「ライフシフト」といっても生きていくのは個々人である。全ての人が「ライフシフト」的な生き方をしなければならないというものではないだろう。一つの所で、とにかく集中して、そこで何かを掴(つか)み大成するという生き方もあるはずだ。

 ただ、その一方で国連の推計によれば、2050年までに日本の100歳以上の人口は100万人を突破する見込みだという。より良き人生を送るために、自己のスキルを磨くことが有意義であることは間違いない。
(湯朝 肇)