韓国大統領選、野党・尹錫悦候補の課題
政権交代望む追い風も、支持率低い20代30代をどう掴む
3カ月後に迫った韓国大統領選挙は政権奪還を狙う野党「国民の力」の尹錫悦(ユンソンニョル)候補と、政権を維持したい与党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)候補の一騎打ちとなっている。
11月までの各種世論調査によれば、どれも尹候補が李候補をリードするという結果が出ているが、この背景には国民の政権交代を望む声があると分析されている。文在寅(ムンジェイン)政権失政への批判が強いからだ。
中央日報社が出す総合月刊誌月刊中央(12月号)では、そのリードしている尹候補に焦点を当て、「尹錫悦が越えなければならない課題」を特集した。分析は申律(シンリュル)明智大政治外交科教授だ。
申教授は、「選挙構図を決める最も重要な要素は2種類だ」として、「政権交代論と政権再創出論との格差」と、「有権者の理念地形」だと指摘した。韓国学者の用語は難しく聞こえるが、要するに「どれくらい政権交代を望むか、維持を望むかの差」であり、「有権者の保守、進歩(左派)、中道層の割合」ということだ。
まず、政権交代だが、今回の選挙は「歴代大統領選でも、これほど交代論が維持論を圧倒したことはなかった」というほど、政権交代を望む声が強い。世論調査の数字を見ると、8月には「交代」47%に「維持」39%だったものが、10月には52対35になり、11月では57対33となって、交代論の漸増が止まらない。
次に「理念地形」だが、韓国では一般的に「保守30%、左派30%」がそれぞれ“コンクリート支持層”で、これに「中間層40%」がいる。これだけ政策が批判されていながら、文大統領が40%台の支持率を維持できる理由がここにある。
だからこそ、中間層の40%の動向が選挙の帰趨(きすう)を決めることになるのだが、詳しく見ると面白いことが分かる。韓国ギャラップの調査結果で、理念地形では保守28%、左派23%、中道32%と出ていながら、政党支持率で見ると、国民の力38%、民主党30%、無党派23%なのだ。つまり、国民の力は鉄板保守層以外からも支持を得ているということだ。同じことは民主党にも言えることで、無党派が保守へ行くか左派を支持するかを決めつつあるということでもある。
ここまでが背景説明だ。それではこうした政権交代を望む声を追い風に支持率トップを走る尹氏の“課題”は何か、という本題部分を見てみる。
申教授は「20代30代世代」が課題だと強調する。「2030世代」というが、ここだけ抜き出してみれば、実は李在明氏の方が尹錫悦氏を支持率でリードしているのだ。だからといって若年層は「政権維持」を求めているわけではない。文政権への批判が最も強いのもこの世代である。
韓国の選挙で候補者がくぐらなければならない関門は「学歴、軍歴、不動産」の3点だ。科挙の伝統を継ぐ学歴社会で、しばしば学歴詐称や不正入学が問題となる。軍歴は徴兵をまともに果たしているかどうかで、有力者の子弟が権力を使って擦り抜けるということも頻繁に起こる。過去の大統領選で息子や親族の兵役不正に足を引っ張られたケースが少なくない。
最後の「不動産」は貧富の格差、社会の二極化が最も露骨に表れる部分であり、文政権でも不動産政策の失敗が政権批判の最大の理由だ。
尹氏の課題とはつまり「若年層をどうつかむか」というのが結論となる。李在明氏は城南市長時代の不動産開発に絡む「大庄洞疑惑」を抱えており、尹氏が不動産政策で国民を納得させられる政策を打ち出せれば大きなアドバンテージになるという話なのだ。
しかし、これが“尹氏の課題”なのだろうか。政治素人の尹氏には最近になって政治資質を問う議論も増えている。政策課題よりも尹氏のリーダーシップが議論されるべきだろう。
それにしても、20代の注目政策で「福祉」「コロナ禍対策」が0%で、「南北関係改善」が4・4%なのには驚く。「自分の利益中心で政治行為をする」と申教授は分析するが、これなら「不動産」がトップにくるのもうなずける。
編集委員 岩崎 哲





