拮抗する韓国大統領選、支持基盤に極左集団の影
各党の候補出そろう、李在明氏に左派政権継続の「特命」
韓国大統領選の各党の候補がほぼ出そろった。与党共に民主党からは李(イ)在明(ジェミョン)前京畿道知事、野党国民の力からは尹(ユン)錫悦(ソンニョル)元検察総長(検事総長)が正式候補に選出された。この他に、国民の党の安(アン)哲秀(チョルス)代表と正義党の沈(シム)相奵(サンジョン)議員が出馬を表明している。
投票日(2022年3月9日)まで4カ月を切った段階で新たに候補が名乗り出て来ることは考えにくく、事実上、李在明氏と尹錫悦氏の一騎打ちとなるとみられている。
韓国の各種世論調査を見ると、両氏の支持率は交互に入れ替わって推移している。11月現在、尹氏がトップになっているが、両陣営がネガティブキャンペーンを繰り広げる中で、スキャンダルが暴かれれば、すぐにトップの座を引きずり下ろされる展開だ。
大統領選は「51対49」の戦いと言われ、与野党が拮抗(きっこう)し、僅差で勝敗が付くことがここしばらく続いている。今回も同じような結果になると予測されており、現在の与党野党ともに「コンクリート支持層」が30%で、残り40%の浮動層をいかに取り合うかが勝敗の分かれ目となる。
文(ムン)在寅(ジェイン)政権では経済、南北、外交などが行き詰まり、左派の組み分け論理で社会が分断された。こうした左派政権を忌む国民の政権交代を望む声が膨らんでいることから、野党は強い追い風とみるが、政権維持を厳命とする与党政府の力を甘く見ることもできないだろう。
李在明氏は前回の大統領選(17年)で党内候補選に挑んだが、文在寅氏に敗れた。その段階で名前が中央政界で浮上したものの、地方政治家の域を出なかった。そのため、尹氏も含めて、国外にあまり馴染(なじ)みがない。
ここで李在明氏に注目した韓国誌を紹介する。中央日報社が出す総合月刊誌月刊中央(11月号)で、「“辺境の将帥”から政府与党大統領候補へ、李在明の特命」を特集している。同誌は李氏が「金(キム)大中(デジュン)、盧(ノ)武鉉(ムヒョン)、文在寅政権を継承する4期目の民主政府をつくる」としている。つまり左派政権を継続させる、それが李氏の「特命」ということだ。
しかも、同誌は李氏が「青は藍より出でて藍より青し」を引用して、前3代の左派政権よりもより左派色を強めると語っていたことを紹介している。「出藍(しゅつらん)の誉れ」を自ら言って約束するキャラクターは、日本では自惚(うぬぼ)れが強く、鬱陶(うっとう)しがられるが、韓国では強い自己アピールになるようだ。
李氏は日本で言う団塊の世代「86世代」である。左派学生運動が盛んで、軍事政権から民主化されていった時期に、学生、青年時代を過ごしている。困窮家庭に生まれ、「少年工」として働きながら、中学と高校の卒業資格検定試験を受けて合格し大学に進み、卒業後弁護士となった。市民活動や労働運動にも関わっている。
だが、「運動圏」(学生運動)出身者で固められた文政権と与党にあって、李氏は非主流派だ。中央政界に身を置いていない“ハンディ”からして当然の面があるが、その李氏を支えているのが「城南ライン」と「京畿道ライン」と呼ばれる人脈だと同誌は紹介する。
「李在明のパワーグループ」の記事で、彼の支持基盤の中には「民族解放(NL)系の“京畿東部連合”の人物らも陣営に多数含まれている。(内乱陰謀の罪で)収監中の李(イ)石基(ソクキ)元統合進歩党議員が主導する“京畿東部”」が含まれると伝える。
これは「“主体思想派の大物”と呼ばれる金(キム)永煥(ヨンファン)氏がつくった地下組織、民族民主革命党の下部組織の一つ」。背後に強力な思想集団がいることに留意しておく必要がある。
とはいえ、李氏は「大衆迎合主義者」とも言われ、もともと強い思想を持っているわけではない。実用主義者で、利益となれば、どうにでも化けることができる柔軟さがあると指摘される。
今後、スキャンダルが暴露され、与党内で候補差し替えという事態にならない限り、左派政権の継続を目指して李在明氏が大統領選を戦うことになる。
編集委員 岩崎 哲





