なぜコロナ治療薬はワクチンの後塵を拝したか言及がほしい読売記事
◆米で治療薬実用化も
読売14日付に「コロナ飲み薬/開発大詰め 軽症者自宅で 米、年内にも実用化」とした治療薬開発の記事が載っている。
「新型コロナウイルス対策の局面を変える『ゲームチェンジャー』として期待されているのが、軽症者が自宅で使える経口薬(飲み薬)だ。発症初期に薬を飲むことで早期に回復できれば、新型コロナがインフルエンザのような一般的な感染症になる可能性もある。(以下略)」というリード文に続いて、開発が進む治療薬を列挙し、説明を加えている。
「先頭を走るのは米製薬大手メルクだ。候補薬『モルヌピラビル』は、米、英、日本などで国際共同治験が最終段階を迎え、9~10月にもデータが発表される見通しだ」に続き「スイス製薬大手ロシュも候補薬『AT-527』の最終段階の治験を実施中」、米ファイザー、国内では塩野義製薬が経口薬の治験を始め、富士フイルム富山化学はアビガンで昨年から治験を実施していることを伝えている。
そして専門家の「数日飲んで症状が落ち着く薬が出てくれば、ワクチン接種との両輪で、新型コロナとの闘いで新しい景色がみえる。出口戦略に向け、国を挙げて開発を推進する必要がある」との期待感を込めたコメント。社説以外のスペース全面を使った記事となっている。
◆大手製薬会社の思惑
治療薬開発の局面をよくまとめた記事だが、読んでいて、どうしても疑問に思ってしまうのは、ワクチン供給の見通しがついたこの時期に、その後塵(こうじん)を拝して一挙に新薬の治験が始まったのはなぜかということ。ワクチン供給と薬のそれが競合しないよう、大手製薬会社間のビジネス上の思惑が影響し合い、その開発速度が互いに調節された可能性があるのではないか。
予防はワクチン、治療は治療薬と、その両方の特性を生かし併用ができていれば、世界のコロナ禍はもっと速やかに収拾されたようにも思う。
◆自宅療養の死亡拡大
一方、読売19日付第1社会面は、紙面のほぼ半分を使って「自宅療養死/東京突出 コロナ『第5波』44人」の見出しで、「新型コロナウイルス感染が急拡大した8月以降、東京都内で自宅療養中に亡くなった人は44人に上った(9月17日時点)。ワクチン未接種の人が大半で、30~50歳代といった若い世代が目立つ」ことを伝えている。この夏の「第5波」で都内では病床が逼迫(ひっぱく)し、自宅療養者はピーク時(8月21日)で2万6409人という。
第5波で自宅療養者が最大1万人を超えたのは、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪の5府県だが、自宅での死者は17日の時点でいずれも1ケタの人数。東京の死者の多さが目立っている。その理由として専門家は「第5波は急激に感染が拡大したため、自宅療養者の健康観察を行う保健所が対応しきれず、目配りできない状態に陥っていた可能性がある」と「目配りができなかった」を挙げている。
医師の往診もままならず、治療薬もなく伏せていてずいぶん心細かっただろうと思う。治療薬があれば相当助かったのではないか。国内では、軽症・中等症向けに「抗体カクテル療法」が取り入れられているが、高価である上、今のところ、医師による処置が必要。家庭でも簡単に利用できる治療薬として普及する見通しは立っていない。予防のワクチンとともに治療薬の普及をなぜ進めなかったのか、ここでも思う。
例えば既に昨年からコロナに効くと報告が多い抗寄生虫薬イベルメクチンは、医師が処方で使用できる治療薬だし、ジェネリック製品として安価。ところが、日本には流通していなくて、薬局に行っても品切れ。一般の人は容易に手に入れることができない。それで、インドなど海外から個人輸入している人もいる。なぜ、こういう不合理がここ1年以上も放置されているのか、ワクチンは予防、治療は薬としてその対処を政府は確立しておくべきだった。
読売の記事は、自宅療養者のつらい現状を伝えたが、治療薬の流通の不備にも言及してほしかった。
(片上晴彦)