C型肝炎訴訟、カルテなき患者が法廷証言に難航
医師意見書も認めず、国と司法に怒り「救済でなく妨害」
カルテのないC型肝炎患者が訴訟で直面するのは、主治医ら医療関係者を捜し出し、法廷で証言してもらうことの難しさだ。肝炎の原因となるフィブリノゲン製剤などが投与されたのは1964~94年ごろとされ、関係者も高齢化。医師が投与の可能性を認める意見書を提出しても、裁判所が認定しないケースは珍しくない。
熊本地裁に提訴した巻京子さん(67)=熊本県高森町=は、85年に東京都内の病院で出産。出産後に大量出血し、母子手帳には輸血量が「1600偀」と記載されている。肝炎発症は産後1カ月健診で判明。体のだるさや倦怠(けんたい)感で翌年には入院し、慢性肝炎と診断された。
当時、大量出血の場合には止血のため血液製剤を使うのが一般的だった。2017年、埼玉県所沢市に担当医がいることを突き止め、面会。製剤を投与した可能性に言及する手紙をもらったが、その後医師は死亡した。法廷での証言はかなわず、巻さんは「医療関係者と連絡が取れないのは私たちのせいではない。なぜ被害者がここまで苦労しないといけないのか」と訴える。
「救済ではなく妨害しているとしか思えない」と怒りを押し殺すように語るのは松島春子さん(66)=東京都葛飾区=。1986年に都内の病院で出産後に多量の出血があり、点滴と輸血を受けた。C型肝炎の罹患(りかん)が判明したのは20年以上たった2008年だった。
松島さんの家族にC型肝炎患者はいない。出血時の医療処置で血液製剤が使われたのではないかと思い、出産時の医師の所在を突き止めて手紙を出すと、製剤を使用した可能性を認める意見書を送ってくれた。ただ、当時のカルテはなく、医師は多忙を理由に出廷を断った。法廷では、製薬会社や国の代理人が製剤使用以外での感染の可能性を繰り返し問いただしてきた。和解への道は見通せず、東京地裁で継続中の訴訟は今年度内に結審する見込みだ。