共産党の圧力に屈する毎日系の悪弊、「敵の出方論」騒ぎで明らかに
◆事実だった八代発言
半世紀も前の話になるが、京都市上京区にあった立命館大学は共産党系学生組織「民青」(日本民主青年同盟)の牙城だった。当時の学長は進歩的文化人の民法学者、末川博氏。大学側の庇護(ひご)もあり、民青が学内を牛耳っていた。
その2キロほど北西に同志社大学があり、こちらは「社学同」(社会主義学生同盟)と呼ばれる過激派学生の拠点だった。70年安保闘争が盛んな折、社学同がゲバ棒(角材)で立命館をしばしば“襲撃”したが、いとも簡単に撃退された。民青の「防衛隊」が学内に隠し持つ鉄パイプで蹴散らしたからだ。
筆者は学生時代にそんな場面に何度か遭遇した。民青は民主を名乗り平和を唱えていたが、時に暴力集団に変貌した。彼らは「これが敵の出方論だ」と胸を張っていた。「革命が平和的になるか、それとも流血を伴うか、それは『敵の出方』で決まる」という当時の党首、宮本顕治委員長の『日本革命の展望』(新日本出版社)を地でいったわけだ。
この「敵の出方論」をめぐって、ちょっとした騒ぎがあった。TBSテレビが10日放送したワイドショー番組で、コメンテーターの八代英輝弁護士が「(共産党は)まだ暴力的な革命というのを党の要綱として廃止していない」と発言、これに共産党が「フェイク」と噛(か)みつき、13日にTBSは謝罪した。同系列の毎日が14日付短報で伝えている。
毎日に続報はないが、朝日は共産党の小池晃書記局長が13日に記者会見し、「敵の出方論」という表現について今後は使わないことを中央委員会総会で決め、「用語としては撤回したことになる」と述べたと報じている(14日付)。
一方、加藤勝信官房長官は14日の記者会見で、共産党の敵の出方論に立った暴力革命の方針について「変更ないものと認識している」と改めて政府の立場を説明した(各紙15日付)。つまり八代発言は「フェイク」ではなく、事実だということだ。TBSは謝罪する必要がなかった。
◆「言論弾圧」体質今も
こうした一連の記事は毎日になかった。これでは毎日読者は八代氏の発言を「フェイク」と捉えてしまう。報道としてはいただけない態度だ。毎日系には共産党の圧力に屈する悪弊があるらしい。
かつて、こんなことがあった。袴田里見元共産党副委員長が共産党から除名後の1978年に「スパイ小畑を殺したのは宮本顕治である」との衝撃の手記を『週刊新潮』(同年2月1日号)に載せた。戦前の昭和8年に二人が関わったスパイ査問事件で党幹部の小畑達夫氏が死亡したが、その真相を赤裸々に語ったのだ。
これに対して共産党は新聞各社に週刊新潮の広告を掲載しないよう圧力をかけ、国鉄(現JR)や私鉄各社にも中刷り広告を扱わないよう迫った。各紙、鉄道各社はこれに屈せず掲載したが、毎日は見送った。八代発言への謝罪要求は共産党の「言論弾圧」体質が今に続いていることを改めて見せつけているが、毎日系はまたも屈した格好だ。
◆「撤回」は「用語」のみ
各紙が見落としているのは、共産党は「敵の出方論」を「用語として撤回」し「もう使わない」(小池氏)とするだけで、「敵の出方論」の考え方そのもの、つまり暴力革命を放棄するとは一言も言っていないことだ。朝日のように「共産党、『敵の出方論』不使用を決定」(14日付)との見出しで報じれば、暴力革命を放棄したと錯覚してしまう。朝日はそう思わせたいのか。
朝日政治部の北見英城記者は15日付夕刊「取材考記」で、「野党は違い越えて、自公に対する選択肢に/立憲、『共産隠し』せず政策で共闘を」と唱えている。民主主義と相いれない暴力路線を隠し持つ共産党と共闘して何が立憲民主か。
ところで、立命館の民青出身、有田芳生参院議員(立憲民主党)は身をもって「敵の出方論」を実践した部類だろうか。古参党員にとって出方論は人生そのもののようだが、氏の見解はどうだろう。
(増 記代司)