日韓関係改善の条件 まずは重要性の認識から
文政権の「理念偏重」姿勢が問題
韓国の中央日報社が出す総合月刊誌月刊中央(7月号)が特集「韓日関係改善の必要十分条件」を組み、2人の外交専門家に意見を聞いている。いずれもアジア太平洋地域での日韓関係の重要性に目を向け、対立による政治・経済・外交・軍事面での損失と、協力関係回復による利益を説く。
しかし、現状は冷静で合理的な国益追求の外交よりは、感情的対応によって、関係悪化の影響が政治だけでなく経済関係にまで及ぶ「複合多重骨折状態」に陥っており、改善のきっかけを得にくい。
一方、米中対立が顕在化した中で、対中政策の要になる日韓関係の復元は米国にとっても重要課題で、米国は誰よりも改善を望んでおり、機会あるごとに両国政府に働き掛けるが、今のところ成果は得られていない。
それは、何よりも日韓関係のこじれが感情面にまで至ってしまっており、「韓国の日本軽視、日本の韓国無視」で膠着(こうちゃく)してしまっているためだ。このこじれにこじれた関係をどう解き、改善、というより再構築していくのか。同誌は対日外交に携わった専門家の知恵を借りる。
まず申珏秀(シンガクス)元駐日大使だ。これまでも日韓関係悪化を憂慮して、メディアで発言してきた。ところが現在の韓国では、少しでも日本の肩を持つ発言をすれば、「土着倭寇(わこう)」と非難される。これは「親日派」を意味するもので、文(ムン)在寅(ジェイン)左派政権を支持するメディアやネットで袋叩(だた)きに遭うから、自然と発言が小さくなる。
そんな環境でも、申元大使の発言には外交界の元老として一定の敬意が払われ、耳が傾けられる。それは正論だからだ。
申元大使は現状では関係改善ができないと見通している。最大の火種である「日本企業資産の現金化」が行われれば、手の施しようもない状況になると危機感を募らせる。それに日韓とも政治の季節を迎えており、お互い簡単には譲歩しにくい局面が続く。
「従って、最も現実的な案は2022年5月、韓国で新政府がスタートするまで、両国関係をよく管理して、本格回復のための条件造成に努力しなければならないだろう」という。それまでは最低でも「現金化」がなされないよう「時間の確保」をすべきだと文政権に注文する。つまり「何もするな」とういうことだ。
一方、東京五輪開会式で日韓首脳会談が実現すれば、それが一つのきっかけとなるというのが駐日大使も務めた柳(ユ)明桓(ミョンファン)元外交通商部長官だ。関係悪化の原因として、柳元長官は文政権の「外交政策決定過程で、地政学的・経済的現実よりは、理念的側面が強く作用したのではないか」と指摘、韓国保守派の危惧をはっきりと言い切った。
そして、「韓米日関係は選択の問題ではなく生存の問題だ。韓日関係改善の必要性は米国が要求したのでなく、われわれの国益に役立つかという側面で自分たちが自主的に判断しなければならない」とし、感情のこじれを置いて「生存」「国益」を冷静に考えよと訴えている。そのためには東京で菅義偉首相と文大統領が会談する姿は「和解のジェスチャー」としても、両国民に伝わるというわけだ。
また柳元長官は小渕恵三首相と金(キム)大中(デジュン)大統領との間で結ばれた「日韓パートナーシップ共同宣言」(1998年)を挙げ、「未来志向的な韓日関係に大きな道標(みちしるべ)を立てた」とし、「第2の韓日パートナーシップ共同宣言が切実に必要な時点だ」と強調した。
申元大使、柳元長官の両者に共通しているのは、韓国民への訴えである。関係悪化の原因を日本の態度に求める見方が一般的だが、物事には一方だけが悪いということはない。冷静に見れば、文政権の「理念偏重」姿勢にあるのは明らかだ。しかし、韓国でこれを伝えるのには高度なテクニックが要る。日本批判をしながら同時に韓国政府の対応にも注文を付けなければならないのだ。
大統領選の幕が開けた。保守野党が政権奪還する可能性もある。文政権の対日政策の失敗を挙げ、日韓関係を正常軌道に戻すためには、政権を代えてみる必要がある。この編集企画は保守政権復活への援護射撃も込められているかもしれない。
編集委員 岩崎 哲





