内戦後のシリアにロシアがソフトパワーで浸透図ると英サイト指摘
◆露の介入で潮目変化
シリア内戦は10年以上がたち、ほぼ終結とみられている。米国が事実上、手を引き、ロシア、イランが深く浸透、隣国トルコが北部のクルド人の動向ににらみを利かせるという構図だ。しかし、英中東専門ニュースサイト「ニュー・アラブ」は、武力衝突は減少しているものの、紛争の終結という見方は「現場の実情を捉えていない」と指摘、「永続的な影響力を構築するためのソフトパワー」によるロシアの影響力への懸念を伝えている。
ロシアがシリア内戦に介入を開始したのは2015年。米国は内戦当初から反政府組織を支援してきたが、膠着(こうちゃく)状態が続いた。ところが、ロシアがアサド政権支持で介入を開始したことで、潮目は大きく変わった。
ロシアのシリアへの関心は、軍事的、戦略的な部分が大きいとみられている。シリアに拠点を築ければ、地中海に直接出ることができるようになるからだ。すでに、地中海岸に海軍基地を建設、空軍基地も確保しており、一定の目的は達成したと言えよう。またニューアラブは、ロシアのシリア介入は、傭兵、兵器、ハイブリッド戦の「試験場」としての役割も果たしたと指摘する。
だが、同サイトは、ロシアにとって重要なのは長期的な影響力確保であり、「シリアでソフトパワーの適用に余念がない」と指摘する。
その一例として、ロシアが今年初めに、親アサド政権のキリスト教系民兵組織にメダルを授与したことを挙げている。これは「少数派の味方」というイメージをつくり上げるためであり、「ロシアはシリアの人々の心に働き掛けるツールを数多く持っている」とニューアラブは指摘する。その一つがチェチェン人らで構成する「憲兵」と呼ばれている組織だ。
11年にロシア軍内で組織され、2万人の要員を抱える。「赤いベレーと黒いリボン」で知られ、シリアでは「ロシア軍の別の顔、ソフトパワーのツール」としての役割を果たしているという。
16年12月にシリアに初めて派遣された。これが初めて海外派遣だったという。シリアでは人道支援などさまざまな活動をしており、支援物資を輸送する軍の車列を警備することも重要な任務だ。
チェチェン人はほとんどがイスラム教徒で、シリア北部に住むカフカス系住民と近い。だが、シリア北部のカフカス系住民は反アサド感情が強く、「ロシアが憲兵をシリアに送った目的の一つは、(シリア北部のカフカス系住民の)信頼を得ること」だという。
「実験は成功した」とニューアラブは指摘する。首都ダマスカス、アレッポ、ハマ、イドリブに駐留し、「シリア住民の信頼を勝ち取る『紛争後』戦略で主要な役割を果たしている」。
◆若者取り込みに注力
さらに、ロシアがシリアでソフトパワーとして力を入れているのは人道支援を通じた若者の取り込みだ。
支援物資は、ロシア軍が警護し、政府系の組織から供給される。これらの支援体制の標的は、「次世代の若いシリア人」だという。「若い世代はプロパガンダの主要な標的だ。影響を受けやすく、ロシアの中東での戦略的影響工作に取り込むことができる」とニューアラブは指摘する。その中でも有力な組織は「RUSSAR慈善基金」。理事会には、ロシア下院の元副議長、元駐シリア大使らが名を連ね、ロシアの「政治エリートとのつながり」は明らかだという。
米国がアジアシフトを進める中、プーチン大統領が、中東へのロシアの影響力確保を目指していることは明らかだ。その足掛かりが、シリアであり、今後のシリアを担う若い世代に親ロシア感情を「刷り込む」ことにある。
◆ワクチン外交活発化
また最近では、ロシアの「ワクチン外交」も活発化している。先進国が自国のワクチン確保に奔走する中で、中国と共に中東、アフリカで存在感を増している。
(本田隆文)