この30年で47倍に増えた「大学発ベンチャー」を取り上げたアエラ
◆焼酎粕から細菌培養
政府は2021年度から5年間の科学研究や技術開発の方向性を示した基本計画を策定、「我が国の経済が持続的な発展を続けていくためには、イノベーションの連続的な創出が必要」という認識を強く押し出した。また「大学に潜在する研究成果を掘り起こし、新規性の高い製品により新市場の創出を目指す大学研究者などに期待が大きい」との言及もある。
アエラ3月29日号に「大学発の新しいベンチャー」という記事が目に付いたので取り上げてみよう。同計画に直接関係はないが、イノベーション創出を目指し実際に事業を立ち上げた6人の学生起業家たちに会社経営の現状を聞いている。熊本市の崇城大学発ベンチャーで、光合成細菌の培養キットを開発・販売する「Ciamo(シアモ)」代表の古賀碧さん(26)は大学2年時に起業した。作物の生長を助けるため農家で使われている光合成細菌に地元名産の球磨焼酎から出る「焼酎粕」を餌として与えたところ、培養に成功。「今後は光合成細菌を水産業に応用し(中略)東南アジアのエビ養殖に展開していきたい」と、現在、大学のファンドから資金提供を受けながら、製造・販売を続けている。
「New Innovations」代表で阪大工学部在籍の中尾渓人さん(21)は、ベンチャーキャピタルなどから累計2億4千万円の資金調達に成功し、飲食、医療、物流など現場作業を担うロボット開発を目指し会社を立ち上げた。手掛けた人工知能(AI)搭載の無人カフェロボット「root C」は、専用アプリから事前にオーダーすると通勤途中の駅構内などで淹れたての上質なコーヒーを待たずに受け取れるという優れモノだ。
他は、日本初のヴィーガン(完全菜食)レシピ投稿サイト「ブイクック」を運営、ヴィーガン総菜のデリバリーサービスを始めた神戸大4年生、大手医療法人と共同で子育て支援アプリ開発など医療系ITを利用し起業した名古屋大3年生ら。職種は多様だが、共通しているのはネットの駆使、生命科学など最新の科学の成果を事業に利活用している点だ。
◆起業家育成の大学も
記事タイトルの「大学発」というのは、大学関係者・研究者、在学生らが中心となって立ち上げた大学発ベンチャーのこと。経済産業省の令和元年度大学発ベンチャー実態等調査などによると、大学発ベンチャー企業は全国に2566社、この30年で47倍に増加、東大の268社を筆頭に京大191、阪大141社と旧帝大が上位を占めている。
大学によっては、起業家育成に力を入れ、それを“売り”にしているところもあるという。当記事ではうかがえないが、今日の大学経営の事情や教育・研究方針の変容を探れば面白かろう。
一般に、ベンチャー企業とは独自の経営理念、技術開発力を持ち、成長力の高い、中小、中堅企業のこと。評者が高校生の頃、社会科の教科書に登場する中小企業は労働条件が悪く、圧倒的に経済の二重構造の底辺としての存在で、当時、教師などが「勉強しなければ、中小企業にしか行けないゾ」といって生徒を脅かしたりした。しかし「ベンチャー型」の新しい中小企業は、若い人たちにかなり違った見方をされているのが分かる。時代は確実に変わった。
◆ニッチ企業が一流に
一方、日本版ニューズウィーク4月6日号の「チャレンジング・イノベーター」という人物紹介欄に、五本木秀昭・内外地図株式会社代表取締役が出ている。公共団体の施策や事業のための地図調整業務を行ってきた同社は、1948年に同氏の大伯父が創業したベンチャー企業。同氏は86年に入社、「(大企業の間にあった)ニッチな業界」で、「従来は研究機関などが行った調査結果のデータを地図に落とし込むだけでしたが、地図調整の上流を目指し、調査義務を手がけるようになり」「“地図屋”から“総合情報サービス企業”へと進化を遂げた」という。
ダイナミックな成長を遂げてきたベンチャー企業経営の醍醐味がよく出ていて興味深く、こういった企業に続く日本のベンチャーの隆盛に期待したい。
(片上晴彦)