池江選手の不屈の闘志とスポーツの力に感謝し感動伝える産経と毎日
◆病乗り越え五輪決定
「ゴールした後、着順・タイムを知らせる電光掲示板を見上げると感涙にむせんだ。日本中が勇気と感動に包まれた幸福なひとときを共感したと言っても過言ではなかろう」(本紙6日付「上昇気流」)。
白血病の発症で、オリンピック出場の目標を東京から3年後のパリを目指していた競泳の池江璃花子選手が、日本選手権の女子100㍍バタフライ決勝を制し3年ぶりの優勝を果たした。57秒77の優勝タイムは日本水泳連盟が設定した400㍍メドレーリレーの派遣標準記録57秒92を突破し、東京五輪のリレー代表に決まったのである。
池江選手の白血病を乗り越えて五輪キップ獲得のニュースは世界を駆け巡った。国際オリンピック委員会(IOC)のサイトは池江選手を<奇跡の人>と称(たた)えた。ロイター通信は「白血病を克服した池江が五輪出場権を確保して逆境をはね返した」と報じた。
池江選手の五輪決定では7日までに、産経と毎日が論調を掲げて評価した。両紙(6日付)はそれぞれ「スポーツの力に感謝する」、「不屈の闘志に胸打たれた」の見出しを掲げて、気持ちを晴れ晴れさせ勇気づけられる大きな感動の共感を響かせたが、それは決して大げさな表現ではない。
◆新しい自身に「復活」
冒頭から「スポーツは時に、こうした奇跡の瞬間を見せてくれる」と書き出した産経は「それは人の心を震わせ、勇気を与えてくれる」とスポーツの力を力説。そして「奇跡の目撃者となれた幸福に感謝したい」と感謝を表明する。
何を目撃したのか。東京五輪で金メダルの有力候補だった彼女が白血病を克服して、元の彼女に復帰したことではない。「復帰」ではなく、新しい自身に「復活」したことである。産経はそれを「泣きじゃくる池江を『おかえり』と抱いて祝福したのは、決勝で彼女に敗れた選手たちだった。昨年3月、入院の闘病生活からプールに復帰した際のやせ細った体を思えば、この復活を『奇跡』といって、何らはばかることはない」と激賞。努力が必ずしも報われなくとも「こうした大きな成功例を目の当たりにすれば、もう一度、自分を信じてみようとの気力もわく」し、白血病の回復だけでなく「一流競技者として復帰することも可能なのだと彼女は教えてくれた」からだと強調した。
その上で産経は「新型コロナウイルスは手ごわいが、感染抑止を前提とする五輪の開催は、社会を取り戻す戦いと同義」で、「五輪はスポーツの新たなドラマを、たくさん見せてくれるはずだ」と結ぶ。池江選手のように、不屈の心構えで困難を乗り越えての五輪開催の呼び掛けも、共感を呼び心に響くのだ。
◆感動の共感が伝わる
毎日も「前を向く姿勢を貫き、不屈の闘志とたゆまぬ努力でオリンピックへの扉を開いた」と冒頭から池江選手を称える。
東京五輪の1年延期が決まった昨年7月に開かれた開幕1年前イベント。そのスピーチに闘病中の池江選手を起用したことに疑問の声があったが、彼女が自分の言葉で語った思いに注目した。「『希望が遠くに輝いているからこそ、どんなにつらくても前を向いて頑張れる』とのメッセージは静かな覚悟を感じさせた。遠くに輝く希望とは24年パリ五輪だったかもしれない」と。
そして、毎日も産経のように彼女の目指すのは「復帰」ではなく、新しい「復活」の視点での自己との闘いに言及。「国際舞台で活躍した過去に戻ろうとするのではなく、新たな競技生活を歩む。『第二の水泳人生の始まり』と自らに言い聞かせ、気持ちを入れ替えた」と指摘するのである。
彼女が今回の優勝後に、涙の中で語った「勝てるのはずっと先のことだと思っていた」「努力は必ず報われると思った」ことに、毎日は「胸を打たれた人が多かっただろう。不自由な生活を強いられるコロナ下ではなおさらだ」と感動を共感した。その上で、抗ウイルス剤を毎日服用し、通院もしているという万全でない池江選手の身を気遣いつつ「自然体で臨む『第二の水泳人生』を心から応援したい」とエールを送って励ます。こちらも感動の共感が伝わる行き届いた社説である。
(堀本和博)