原発の無防備には怒り、日本国家の無防備には知らんぷりの左派紙
◆水際阻止がより安全
左も右も憤慨している。
「少なくとも1カ月以上、テロリストの侵入などにつながりかねない危険な状態が続いていた。信じがたい事態である」(朝日3月24日)
「安全に対する意識が根本から問われる深刻な事態である」(産経3月28日)
東京電力柏崎刈羽原発のことだ。地元紙・新潟日報もこう書く、「またもずさんな実態が明らかになった。あまりのひどさに言葉を失う」(3月18日、いずれも社説)。
同原発では核物質防護設備の計15カ所で機能が喪失し、検知ができない状態にあり、外部から簡単に入れた。それが原発テロリストなら、フクシマどころの話ではなくなる。それで原子力規制委員会は、安全重要度などが4段階で最悪の「赤」と暫定評価した。憤りはうなずける。
それにしてもテロ対策でメディアがこんなに足並みをそろえたのは珍しい。ならば、もう少し頭を巡らしてみてはどうか。テロリストを原発に近づく前に捕まえる。入国の水際で阻止する。それなら一層、安全だ。これらの方策にダンマリでいいのか。
◆「スパイ天国」の日本
新潟県といえば、北朝鮮による拉致事件が相次いだ。横田めぐみさんは新潟市、曽我ひとみさんと母ミヨシさんは佐渡、そして蓮池薫さん、祐木子さんは柏崎刈羽原発からわずか数キロ南の柏崎中央海岸から拉致された。やすやすと侵入した北朝鮮工作員によってだ。こっちの方は仮定の話ではなく、れっきとした現実だ。これこそ「信じがたい事態」ではなかったか。
なぜ、テロリストの侵入を許したのか。戦後の外事警察を担った故・佐々淳行氏(初代内閣安全保障室長)はこう述べている。
「どこの国でも制定されているスパイ防止法がこの国には与えられていなかったからです。…もしあの時、ちゃんとしたスパイ防止法が制定されていれば、今回のような悲惨な拉致事件も起こらずにすんだのではないか」(「諸君!」2002年12月号)
テロリストの侵入を阻止できれば、あるいは捕まえる網があれば、テロを防げる。その網を破れ放題にしておいて原発だけを責め立て「赤」を突き付ける。もとより批判は免れないが、ならば戦後日本の「スパイ天国」は何色か。
驚いたことに朝日などの左派紙は「白」(無罪放免)ときた。スパイ防止法は何度も政治の俎上(そじょう)に載ったが、その都度社を挙げて反対した。原発の無防備には怒り、日本国家の無防備には知らんぷり。反原発ならオーケー、安全保障なら何でもノーの図式だ。恐るべきダブルスタンダード(二重基準)。これこそ「反国家」の所産ではあるまいか。
◆シェルター提案せず
どうも原発をめぐる「思考停止」が続いているようだ。同じ3月、水戸地裁は東海第2原発の再稼働を認めない判決を言い渡した。原発30キロ圏内の避難計画やそれを実行する体制が整えられておらず、住民の安全対策に問題があるというのだ。
それを受けて毎日は4日付から「砂上の原発防災 住民は逃げられるか」と題するシリーズを始めた。東大との共同アンケートによると、福祉施設からは「避難先への搬送の不安」「施設の職員だけでの対応が困難」といった不安の声が続出したという。もっともな話ではある。
が、遠くに逃げるだけが能ではあるまい。例えば、スウェーデンには全国民が避難できるシェルターがある。人口5万人のゴットランド島では集合住宅や学校など島の至る所にあり、その数は約350に上る、と朝日の取材記事にある(渡辺志帆記者「世界発2017」同8月8日付)。
核シェルターだ。原発事故でも利用できる。心底、「安全対策」を問うなら、「シェルターを病院や施設に設置せよ」と、なぜ言わないのか。核ミサイル攻撃にも安心だ。だが、安保と関われば、何でもノー。思考停止のあまりのひどさに言葉を失う。いいかげんにせよ、偽善メディアよ。
(増 記代司)