脱炭素でEU・中国の後塵を拝する日本の起死回生策を特集した3誌

◆試練迎える基幹産業

 このところ日本社会において「脱炭素」が頻繁に取り上げられるようになってきた。もっとも脱炭素に今、敏感に反応しているのは産業界で危機感すら持っている。脱炭素への取り組みは欧州連合(EU)が先陣を切っているが、中国も本格的に乗り出し、日本もようやく重い腰を上げたという感じだ。果たして脱炭素で日本は世界を牽引(けんいん)していけるのか。

 そんな時代の潮流に対し、経済誌3誌がこぞって特集を組んだ。週刊ダイヤモンドは2月20日号で「3000兆円マネーが動く脱炭素完全バイブル」と題して企画を組めば、週刊エコノミスト(3月2日号)で「急成長!水素 電池 アンモニア 脱炭素で大ブーム」と見出しを躍らせる。週刊東洋経済はすでに2月6日号で「脱炭素サバイバル」と題して特集を組んでいる。

 わが国で脱炭素が急に叫ばれるようになった背景には、昨年12月末に菅義偉首相が「カーボンニュートラル(炭素中立)」を打ち出し、「2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにする」と表明したことが大きい。CO2を多く排出する業種は火力発電を有する電力業界やトラック・乗用車を生産する自動車業界、他に鉄鋼・化学業界に及ぶ。これらの業種は日本経済を支えた基幹産業だが、いま大きな試練に立たされている。

 ダイヤモンドは次のように綴(つづ)る。「すでに、世界の環境関連投資は3000兆円を優に超えるとされており、資本市場は『グリーンバブル』の様相を呈している。主要国やグローバル企業は、脱炭素の新たな技術やビジネスモデルへの投融資を呼び込もうとしのぎを削っている。…日本企業は世界の潮流からはじき出されようとしており、グローバル競争では明らかに劣勢の状況にある」と指摘する。

 具体的に自動車業界を例に挙げると、政府は先の方針で「2030年代半ばまでに新車販売でガソリン車を禁止にする」と提示し、電気自動車(EV)100%化を打ち出した。これに対してトヨタの豊田章男社長はオンライン会見で「(即座にEV化を急げば)日本の自動車ビジネスが崩壊する。サプライチェーン全体で取り組む必要がある」と言い切った。

◆期待大のアンモニア

 確かに日本の現状を見ればEV化は簡単ではないことが分かる。ただ、脱炭素においてはEUが結束して取り組み、中国が共産党主導の下で莫大(ばくだい)な資金を投入し、技術覇権を狙っている中、日本も安穏としているわけにはいかないのも事実なのである。

 一方、カーボンニュートラルで脚光を浴びてくるのが、水素、電池、アンモニアといった脱炭素に関わる技術。中でもアンモニアに大きな期待が掛けられている。エコノミストは「アンモニアが化石燃料を代替する時代が来る」と言い切る。水素と空気中の窒素を反応させてアンモニアをつくり石炭と混焼させるとCO2の排出量は極度に抑えられる。ちなみに国内にある石炭火力発電所でアンモニアに入れ替えると電力部門の半分に相当する約2億㌧のCO2が削減されるという。アンモニアを燃料とする場合、すでに貯蔵・運搬・取引方法が確立されており、既存の設備が使えることがメリット。

◆公的制度の議論必須

 ただ、「大口需要に対応できる(アンモニアを含め)水素サプライチェーンが確立されていない。…新たなエネルギー市場が生まれようとしている中、民間のみの資金力・価格調整力では限界がある。研究開発や設備投資を支援する補助金や投融資制度、カーボンプライシングなどで価格燃料価格を高く設定するといった公的制度の議論は避けて通れないだろう」(柴田善朗・日本エネルギー経済研究所マネージャー)といった課題が残っている。

 バブル崩壊やリーマン・ショックなどこれまで多くの試練を乗り越えてきた日本の産業・経済だが、脱炭素はこれまで以上の大きな試練となりそうだ。それだけに国民的な団結が求められている。

(湯朝 肇)