読者に「情報提供」という名目で“タレこみ”を求める文春の危うさ
◆告げ口や告発を奨励
週刊文春WEBに「文春リークス」というページがある。「あなたの目の前で起きた事件を募集!」とあり、読者に情報提供を促すものだ。「例えば、ブラック企業の内情から、有名人に関する疑惑、事件や事故、自然災害まで、『記事のネタ』となる情報をお寄せください。『いつ、どこで、誰が、何をした』というように、なるべく具体的な内容を記述してください」(同サイト)と“タレこみ”を求めているのだ。
既にテレビ局や新聞社も同じようなことをしているが、ジャーナリズムがこうも露骨に“素人”に「記事のネタ」を求める時代になったのかと、少し暗澹(あんたん)たる思いが湧いてくる。もちろん、ニュースはジャーナリストだけのものではないが、以前は記者が自身の情報網を駆使して“ネタ”を得てきた。それが「情報提供」というと聞こえはいいが、要するに「告げ口」「告発」を奨励しているわけだ。まかり間違えば、これによって地位や職を失ったり、逮捕・訴追の対象になる人が出てくる場合もあり、メディアが人を陥れようという悪意のお先棒を担がされ“冤罪(えんざい)”を生む危険性も十分にある。
今はフェイクニュースを見分けるのが難しい時代で、デジタル情報はいくらでも偽造ができる。寄せられる玉石混交の情報の中から、石を掴(つか)むこともあるのだ。
「文春砲」もあり、週刊誌には「内部告発」によるものや「流出情報」が元になっている記事が多くなっている。寄せられた情報の中でどれを深掘りするかは編集部に懸かっており、例えば「一方には辛く、他方には甘い」というような恣意(しい)的な選択がなされていないと、誰が保証できるのか疑問が残る。
◆得する人と損する人
週刊文春(2月11日号)に二つの大きなスクープ記事が載っていた。「菅首相長男、高級官僚を違法接待」と「小川彩佳アナ180億円夫の『産後不倫』写真」だ。前者は菅義偉首相の長男で「東北新社社員の菅正剛氏」が総務省幹部を「違法接待」していたというもの。国会でも野党は同誌の報道を基に菅首相を追及している。
小川アナ夫不倫は産後すぐに職場(TBS「news23」キャスター)に復帰し、子育てと仕事を両立させている、という見本のような話の裏で、夫は産後の妻と乳児を裏切り不倫を重ねていたというもので、画面で気丈に振る舞う何も知らなかった小川アナが痛々しく見える。
タレ込まれた情報の中で、あるいは編集部が掴んだ情報の中で、どうして今これを報じなければならないか、の基準は「何が読まれるか」だ。「社会正義」や「公正に資す」は後付けの名分であって、商業誌である以上「売り上げ第一」で、それは責められるものではない。とはいえ、提供された情報の裏には「意図」があり、誰かが攻撃されれば、得をする者が出てくるわけで、結果として編集部はそれを助けた格好になる。
菅首相が批判され、東北新社の狙いが頓挫して、得をする者は誰なのか。小川アナが窮地に陥って“ほくそ笑む”人がいるのかどうか。情報提供に頼り過ぎることがジャーナリズムの劣化に繋(つな)がらなければいいがと危惧する。
◆“誤報”を覆した新潮
週刊新潮(2月11日号)の記事に目がいった。「『結婚容認』ではなかった『秋篠宮さま』」だ。「会見後の報道は誤り!」とある。長女眞子殿下の小室圭さんとの結婚を「容認」ではなかったという話だ。秋篠宮皇嗣殿下は「今なお結婚に強硬に反対されているというのだ」という。「二人が納采の儀に臨まれることには“絶対できない”と激しく反対なさっている。その先の結婚などもっての外で、現在もそのお気持ちにいささかも変化は」ないというのだ。
昨年末の報道で、ついに秋篠宮さまも“認めた”となり、一貫して“国民が祝福できる結婚”を求めてきた週刊新潮としても白旗を揚げざるを得ないところだった。しかし、宮さまの真意はそうではなかった。「容認」という“誤報”をひっくり返して息を吹き返している。
(岩崎 哲)