「才能が7割。××も高校出たばかりでした…


 「才能が7割。××も高校出たばかりでしたけど、ちゃんとしゃべれて、台詞を自由に言えました。××もそうでしたし、××も初めからうまかった」と演出家の蜷川幸雄(2016年没)が語っている。「ダメ出しをするレベルのやつが、後に伸びたなんていうケースは一度もない」とも言う(『演出術』ちくま文庫)。

 小林秀雄の名言に「天才とは努力し得る才」というのがある。実際はゲーテの言葉だが、「天才は楽しく努力する」という趣旨は明瞭だ。

 「努力は苦痛と共にある」と考えるのが普通だが、才能ある人々は面白いからやっているだけで、苦痛でも何でもない。だから平気で努力できる。苦痛があったとしても、それを補って余りある楽しみがあることが分かっているから、苦痛も苦痛ではない。

 蜷川は、稽古場に見学に来ない俳優は、そのこと自体が才能のなさを示すとも言う。才能ある俳優は面白いから見学する。結果、いろいろなことを学んで身に付けてしまう。

 「見学しなければならない」との義務感で見学するわけではない。俳優志望者の中にはアルバイトで忙しいというケースもあるだろうが、それも才能のうちなのかどうか?。

 何であれ、その分野が「好き」というのが才能の始まりなのだろう。芸術や芸能に限らない。あらゆる場面で、人それぞれに誰もが「努力し得る才」で生きている。あまりにも普通だから、そんなことを一々自覚する機会がないだけの話だ。