ロシア製ワクチンのPRに終わったアエラの駐日露大使インタビュー
◆安全性の根拠不十分
新型コロナウイルス禍で当初、専門家の間で、ワクチンの完成は最低3、4年かかるというのがもっぱらだったが、米国、英国、ロシア、中国などで既に実用段階を迎えているという。そんなに急いで、ワクチンの安全性は大丈夫なのか、大いに気になる。アエラ11月9日号で「ワクチン開発で先行するロシアの駐日大使にインタビュー 『駆け引きには使わない』」と題し、ガルージン駐日ロシア大使に話を聞いている。
ロシアでは8月に世界に先駆けてワクチン「スプートニクⅤ」を、10月に二つ目の「エピワクコロナ」を当局が承認した。ロシア保健省傘下の国立ガマレヤ研究所が開発、この時、通常の手続きとは違い、多数の患者で有効性や安全性を確認する最終の臨床第3相が省略され承認された。文中、ガルージン大使は「第3段階の臨床試験が11月中に終わる見込み」と話している。
先のガマレヤ研究所は、これまでエボラ出血熱やMERS(中東呼吸器症候群)でのワクチン開発を手掛け、「こうした安全性の実績からも、諸外国で開発中のワクチンと比べてもスプートニクⅤは優位性があると私どもは確信しています」と。だが、スプートニクⅤの臨床前承認は拙速でなかったか。安全性、信頼性についての根拠を聞きただしたいが、引き出された回答は「(優位性の)確信」のみ。同大使は「日本での現地生産」も提案している。
また、ロシアのワクチンに依存すれば、政治的課題も含めた交渉を有利に運ぶ「ワクチン外交」に乗せられてしまうことにならないか、と質問。これに対し、ガルージン大使は「政治的な意図抜きでコロナ対策を進めています。これは医療だけでなく経済分野においても一貫しています」と、その懸念を一蹴し「責任ある供給国」と胸を張る。
インタビュアーはその答えで納得したように、「闘いは、一国で解決できる問題ではない。ましてや覇権争いなどとは無縁でなければ、人類がウイルスに敗れることは必至だ」と締めているが、内容はロシア製ワクチン宣伝の域を出ない。
◆ワクチンは戦略物資
新型コロナウイルスワクチン関連の記事ではほかに、ノンフィクション作家・広野真嗣氏がリポートした「開発バトル、日本敗戦の理由」(ニューズウィーク10月27日号)が目に付いた。
それによると、米・英、中国、ロシアなどでは、ワクチンは「戦略物資」であって、米政府・軍の場合、「いざパンデミック(世界的大流行)が起きたら、種の近い病原体のワクチンを応用して最短で大量生産・投入できる」(バイオ製薬企業アンジェス創業者、森下竜一氏)のである。
しかもワクチンは、「ワクチン同盟圏」ともいうべき、国家間の同盟を形成する手段でもあるという。「中国はアフリカや東南アジアに次々とワクチン提供を申し出て一帯一路圏への影響力を誇示した。ロシアが臨床試験の終了を待たずにワクチンを承認したのは、経済停滞下での起死回生策と映る」(森下氏)。
これに対し日本は「この20年間を振り返れば、新型コロナを含め繰り返し新興・再興感染症が起きているのに警戒感は維持されなかった。『日本はなんとかなるだろう』と。でも今回の反省があって変わらなかったら、よほど鈍感ということになる」(国立感染症研究所所長・脇田隆字氏)と。
◆訴訟で開発に遅れ
わが国は1980年代前後、ワクチンの副作用で国が訴えられると、ほとんどのケースで敗訴したため、以後、国の承認審査が円滑に行われなくなった。また、医療界が左傾化し、国が先導するワクチン開発は医療界の独立を守れないという主張がまかり通ってきた。これらには左翼系メディアの後押しもあった。
日本は以前から、感染症に対する優秀な研究者は多く、ワクチン開発の潜在能力は高いが、ワクチン製造に非常に消極的だ。菅政権はワクチン開発にてこ入れして戦略物資級に格上げすべきだ。
(片上晴彦)