医療現場の不具合はコロナ禍前の態勢に問題ありとする現代・文春
◆女子医大で解雇騒動
コロナ禍の中、医療関係者のふんばりについては評価されているが、ここにきて医療現場から不協和音が聞こえてくる。週刊現代7月25日「コロナ患者受け入れで病院崩壊/女子医大の看護師400人はこうして大量退職した」がすさまじい。同病院勤務の看護師らが続々と退職している。
そのきっかけは、コロナによる患者数減などで大幅に収支が悪化したとして、経営陣が持ち出した夏のボーナスゼロの提案。これに対し、看護師らの加入する組合には悲痛な声が寄せられた。<ボーナスは1円も支給なし。説明も紙切れ一枚。到底納得できない><どこまで頑張る職員を侮辱し痛めつければ気が済むのですか?>。
「400人が退職希望と報道されているようですが、実際にはもっといるんじゃないでしょうか。私も周囲の仲間たちから一緒にやめようと誘われることがあって、正直迷っているところです」(30代看護師)というのが記事の内容。病院当局は7月17日付で「ボーナスを支給する方向」と通知を図ったが、退職者は続いているという。
だが、記事では騒動の根はコロナ禍だけにあるのではないと説く。「今年で創立120年を迎え、約1200の病床数を誇る大病院がこのような惨状に陥った背景には、コロナ以前からの伏線もある」と。
2014年、同病院で、全身麻酔剤でプロポフォールの投与で医療事故が起き、これが「特定機能病院の取り消しにつながり、現場と経営陣の不協和音が高まりました」(40代看護師)。同時期から病院経営は悪化。現代編集部が17年に入手していた内部文書には<これ以上医療収入が減少しますと、法人存続にかかわる危機的事態となります>という文言があったという。
今回、言ってみれば、コロナ禍を奇貨として、積もった借財を看護師切り捨てで解消しようというわけだ。記事に経営者側のコメントが載っていないのが難だが、その経緯は、当たらずといえど遠からずだろう。噴出した矛盾はもともとその病院が抱えてきた課題が今、表面に現れてきたものとみられる。
◆小児科の患者が激減
一方、週刊文春7月23日号の、「『医療崩壊しない』のウソ/病院に迫る9月『小崩壊』3月『大崩壊』」も医師らの経営の努力不足を衝く。
来診の患者数が減っている。小児科医によると、まず、保護者が感染を心配し、小児科に子供を受診させることを控えるようになった。集団生活がなくなり、子供たちの感染症が減り、コロナ感染を心配して予防接種まで控えるようになった。
また関東近郊の基幹病院によると、耳鼻咽喉科も7~8割減。口腔内や鼻腔内を診察するため、新型コロナウイルスの感染リスクが高いことを恐れてのこと。耳鼻咽喉科の主たる疾患は良性疾患が多いため、緊急性がさほどない面もある。自治体や企業の健康診断が、3月からストップしているし、高齢の患者の来院も減っていて、病院経営の厳しさに拍車を掛けている。
◆医療の優先順明確に
それに対し、新型コロナを診る医療機関では、医師や看護師が非常に大きなストレスを感じているし、数の不足も深刻だ。看護師の確保や見合った待遇を用意できるかどうかは、まさに“病院の体力”に懸かっている。わが国は明治以来、西洋医学を継承し、従来、得意とされてきた感染症の医療分野がこの有様だから、残念なことだ。
「これまで日本では、医療は一律に保険で面倒を見るスタイルを貫いてきましたが、そのシステムが今回、予想外の形で転換点を迎えたのかも知れません。医療の中でも何らかのメリハリをつけて優先順位を明確にしなければ、医療制度の根幹そのものが成り立たなくなる恐れがあります」と識者が語っている。
ウイルスなど感染症医療に人材を投入し育成を図るなど、わが国は医療の重点化に努めておくべきだったというのである。患者を待つだけの医療態勢からの転換が必要になってきた。
(片上晴彦)