毎日が独り批判する「Go To キャンペーン」はそんなに問題か
◆医療体制の充実必要
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため政府が呼び掛けてきた行動自粛が19日、一段階緩和され、都道府県をまたいでの人の移動が全国で原則解禁となった。またベトナム、タイなど4カ国を対象に、出入国制限も緩和された。
もちろん、感染が完全に収束したわけではないから「第2波」への警戒は怠れないが、待ちに待った経済・社会活動の本格的な再開である。
新聞各紙もこれを受け、「出入国規制の緩和」のテーマで読売、毎日が19日付で、また「全国移動解禁」では産経(19日付)、日経(20日付)、本紙(21日付)が社説を掲載、適宜な論評を展開した。
中でも「賢いコロナ対策で経済を動かそう」の見出しの日経社説は、通常2本立ての枠に1本だけの大社説。
同紙はこれまでの休業や国内移動の自粛要請により、街の飲食店や各地の観光産業は大きな痛手を被り、失業や廃業・倒産の急増が懸念されるとして、「秋から冬にかけて感染の第2波が到来し、社会や経済が再び止まれば影響は甚大だ。消費や投資は萎縮し、財政への負荷はさらに増す」と警告。
ワクチンや治療薬普及までの少なくとも1~2年間、なんとしても感染拡大は回避したい――そのために同紙は「感染が小康状態の今のうちに手を打っておく必要があるのは、検査や感染者の隔離を含む広い意味での医療体制の拡充だ」と強調する。
唾液を使ったより安全なPCR検査や短時間で結果の出る抗原検査、抗体検査など検査体制の充実と、肺炎になった患者らを症状の重さに応じて受け入れ病院に的確に割り振る仕組みなどである。
これらにより、同紙は「今後はこうした非常時対応の手順を政府や自治体、各病院が協力してあらかじめ決めておき、予期せぬ患者の増加にも余裕をもって対応できる準備を進めてほしい」と要望するのだが、妥当な指摘である。
◆妥当な観光需要喚起
毎日は20日付では、政府が第1次補正予算で打ち出した需要喚起策「Go To キャンペーン」について、「効果も経費も疑問が多い」と題する強い批判の社説を掲載した。
「Go To キャンペーン」は、先の日経社説の初めの部分で記した通り、自粛などで打撃を受けた街の飲食店や各地の観光産業を支援するもので、事業予算は1・7兆円で8月にも実施の予定である。
毎日は熊本地震などの震災復興では観光支援が有効だったが、「全国一斉に観光需要を刺激することには問題もある」と批判した。東京を中心に連日、新たな感染者が確認されており、「特定の期間や地域に観光客が集中すれば、感染を広げかねない」というわけである。
第2波への警戒感が解けない中、消費者も遠距離の旅行を控える可能性があり、支援に見合う経済効果があるかは疑問だ、とも言う。
同紙が言う通り、数十人の新規感染が続き、終息は依然難しい状況だが、爆発的拡大を起さない封じ込めには成功しつつある。先述の日経が言う「広い意味の医療体制」も徐々に整いつつある状況と言えよう。政府が需要喚起に動くのは当然で批判されるべきものでない。
◆木を見て森見ぬ批判
毎日の批判の根底にあるのは、持続化給付金事業にもあった巨額事業委託費の問題であり、「Go To」でも事業費の約2割が事務費に使われるからであろう。
大きな事業であり、節約は当然だが、事務費が嵩(かさ)むのはある程度はやむを得まい。
同紙が指摘するように、多くの自治体が既に観光支援策を実施しているが、地元県民対象が主であり、それこそ効果にも限りがある。
「Go To」による県境を越えた支援策は、観光地にとって、感染拡大状況をうかがいながらの、徐々だが、小さくない確かな支援となろう。毎日の批判は、「木を見て森を見ない」見方である。
(床井明男)