映画、音楽、文学などで世界に進出する韓流の最新事情を探った文春
◆韓国の別の側面知る
毎週、コロナ騒動が週刊誌を埋めている。確かに緊要な問題であり、日々状況は変化しているのだから、追い続けることには十分意味がある。しかし、コロナ疲れしている読者にしてみれば、胃もたれするほど「食傷気味」だ。
この週も各誌はコロナ特集を組んでいる。だが、その中でひときわ目を引いたのが週刊文春(5月7・14日号)の「大特集!ほんとうの韓国」である。
韓国といえば、反日、歴史問題がすぐに思い浮かぶ。ドラマやK-POPなど韓流が日本でも流行し、芸能韓国の顔が少しは見えていた時期もあった。だが、文在寅政権になって、韓国は過去を蒸し返し、日韓関係の根幹を揺さぶりだした。多くの日本人は嫌韓本に目を向け、やがて韓国を関心の外に置くようになる。
しかし、そうして日本が韓国を無視している間、気付いてみれば、奉(ポン)俊昊(ジュノ)監督の「パラサイト」のように、韓国はカンヌ映画祭やアカデミー賞で評価される優れた映画を作る国になっていた。日本人が政治や歴史問題に気を奪われている間に、韓国は別の側面で発展を遂げていたのだ。
この特集は「映画、音楽、文学、テレビドラマなど続々と世界に進出する韓流の最新事情を探った」もので、政治と歴史という部分だけに偏って韓国を見てきた日本に、変化する「ほんとうの韓国」も知っておく必要がある、というのが企画意図のようだ。
◆実は面白い韓国映画
「映画誌・比較文学研究家の四方田犬彦」は既に1980年前後の段階で、「韓国映画は(日本人がまったく知らないというだけで)実は相当に面白いのではないかと思うようになった」と同誌に述べている。日本でも知られた「シュリ」や「JSA」は2000年前後だが、これらが突然出てきたわけではなく、その20年後アカデミー賞を取ったのも、「実はこうした長い間の下積みがあってのことだと理解すべきだろう」と述べている。
文学と政治、韓国こそこの題材は避けて通れない。1980年の光州事件、87年の大統領直接選挙を実現させた民主化、97年のIMF救済など、「社会的に同じ経験を共有してきた」からこそだ。「作家・松田青子」は韓国文学と政治が切っても切れない関係にあることを韓国の作品を紹介しつつ説明している。
このほかJ(日本)とK(韓国)のPOPがどう歩んできて、どこで別れたのかの対談や、「今や現代のビートルズとも言われる韓国の人気アイドルグループ『BTS(防弾少年団)』」を「ライター紫野あみ」が解説し、「神レベルの面白さ今見たい韓流ドラマベスト5」を「映画評論家石津文子」が熱く語る。
「テラタビスト吉田さらさ」のコラム「韓国の寺は現役だ」は興味深かった。日本の寺院が「わび・さび」を体現する観光地だとすると、極彩色の仏の世界そのままの派手な韓国の寺は「現役の祈りの場」なのだという。この違いを「入り口として、より深い韓国文化の世界に入っていくことができる」と吉田は説明する。絢爛(けんらん)豪華な寺に違和感を抱けば、その奥にある韓国人の心の世界は覗(のぞ)けなくなるわけだ。
◆文化芸術を入り口に
ある意味“最初の韓流ファン”とも言えるのが思想家・柳(やなぎ)宗悦(むねよし)だろう。「哲学者・鞍田崇」が「朝鮮陶器と柳宗悦」の記事で、柳が朝鮮の芸術が「情の美しさが産んだ芸術である。『親しさ』Intimacyそのものが、その美の本質だと私は想う」と述べたことを紹介し、それは「朝鮮の歴史と現状に、深い悲しみという、普遍的な真理を痛感したから、だ」と分析している。
今の日韓関係で朝鮮の「悲しみ」と「親しさ」を彼らの奥に見るのは難しいが、文化芸術を入り口として触れてみる、そういうルートを見せたことは必要なことだろう。
特集最後に「反日種族主義」の日本語版刊行に携わった「産経新聞編集委員、久保田るり子」が韓国総選挙を分析したが、いきなり今の日韓関係に引き戻された。
(敬称略)
(岩崎 哲)