文大統領の親衛隊「文派」

極端な「排他性と選民意識」 与党内の異見も徹底糾弾

 韓国で昨年、文在寅大統領が最側近・曺国(チョグク)の法務長官任命を強行したところ、数々の疑惑が明るみに出て、彼を辞めさせざるを得なくなった。これを切っ掛けに、文在寅支持層にひびが入り、離反する有力者も出てきた、ということを3月の本欄で紹介した。

 韓国の政治ではいったん社会的政治的に葬られたとしても、捲土(けんど)重来、たとえ死刑判決を受けようと、しぶとく復活してくる光景を過去何度も見せられてきた。3度の死地をくぐり抜けた金大中(キムデジュン)元大統領を筆頭に、首相クラス、有力政治家が死刑を含む有罪判決を受けながら、ある時は日本に“亡命”し、ある時は“病気治療”の名目で米国に逃避し、ほとぼりが冷めると、政界に復帰して、大統領にまで上り詰める、ということが可能な国が韓国だ。

 再びそのような光景を目にする可能性が出てきている。曺国である。本人は政界から身を引いているが、4月15日投開票が行われる総選挙では与党内で彼を支持するか否かで“組み分け”ができている。なぜ議席もなく、閣僚でもない曺国を支持するのかと言えば、彼が文在寅の最有力後継者と目されているからだ。今後、曺国からは目が離せない状況が続くだろう。

 曺国はいったん置くとして、離反者も出て、文在寅の「岩盤支持層」にひびが入ったとはいえ、その核心部分は非常に強固なようだ。中央日報社が出す総合月刊誌月刊中央4月号が「精密解剖」特集で「文在寅の覚醒した親衛隊“文派”の実体」を書いている。これを見ると、なぜ文在寅支持層が強固なのかの一端が理解できる。

 文在寅の親衛隊とはどういう存在か。1980年代の左派学生運動に身を投じた「56世代」が中心で、一般的には「文派」と言われている。その中の過激グループが「頭壊文」だ。意味は「頭が壊れても文在寅支持」つまり「何が何でも無条件文支持」ということである。

 同誌によると、「同じ与党でも文大統領に従わなければ“積弊”として追及し、報復する。彼らの言うワンチームとは文在寅中心を意味し、妥協不可能な絶対値だ」という。

 昨年末、与党議員がある法案に異見を述べ棄権票を投じた。すると、文派によるインターネット交流サイト(SNS)を通した集中砲火を浴び、事務所への抗議電話が鳴りやまなかったという。こうした文派の追及が影響したのか、この議員は今回の選挙で公認が得られず、さらに与党が対立候補を同じ選挙区に立てて、追い落としにかかっているというから徹底している。

 また文派は常にネットを監視しており、文在寅の発言やそれを支持する書き込みには賛同をクリックして、検索画面の上位に押し上げる。少しでも批判的なものに対しては、相手を徹底的に追い込んで、ネット界から葬ってしまうほどだという。

 同誌は「文派の見解では文大統領は『絶対君主』に他ならず、彼の発言と行動・考えに誤りというのはあり得ない」と説明する。しかし現実問題として文在寅が“無謬(むびゅう)”であるはずもなく、数々の失政を重ねているが、それは「文大統領の真意を悟ることができず、間違って実践した愚かな侍従(部下)たちがいる」からなのだという。

 こうなると何かの信仰のようだ。事実、文在寅支持から“転向”した代表的ネット評論家ユ・ジェイルは、「文派の習性が善と悪の対決構造をつくって宗教的感受性を吹き込むことだ。文在寅は絶対善、それに対抗したり反対する者を全部悪と規定する」と分析している。左派弁護士のイ・ミンソクは「ナチス親衛隊のようだ」とまでいう。

 こうした文派の「排他性と選民意識」は文在寅の師である盧武鉉(ノムヒョン)元大統領の支持者らにはなかったものだ。盧武鉉は「民主主義の最後の砦(とりで)は覚醒した市民の組織された力」と強調していた。文派はその遺伝子を継いでいるが、どうして不寛容さを身に付けたのか。同誌は「盧武鉉を守れなかった」という悔悟からだと分析している。そして「憎しみの対象と理由をつくり出し」続けているというのである。

 文派が韓国民の多数であるわけではないが、しつこさ、執念深さ、連携力などが彼らを大きく見せている。選挙が終われば、文派の矛先が外に向いてくることもあり得る。文派への理解を深めておくには有益な記事である。

(敬称略)

 編集委員 岩崎 哲