日産と検察による陰謀論でゴーン被告の逃走を弁護するテレ朝・玉川徹氏
◆国益軽視のコメント
民放の情報ワイドショーが日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(65)のレバノンへの密出国事件を連日取り上げている。外国政府を巻き込んだスパイ映画さながらの逃亡劇は、視聴者の好奇心を刺激するには打って付けのネタ。しかし、同被告は資金力を使ってわが国の司法制度を口八丁手八丁で批判しており、事件は日本の威信を懸けた情報戦に発展している。
そんな中、保釈中の逃走という違法行為に理解を示し、結果的に同被告のメディア戦略に加担するコメンテーターが存在するのは、国益を軽視する日本のメディアならではの現象であろう。
6日、正月の帰省先でたまたま見たテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」のレギュラー・コメンテーター玉川徹(同テレビ報道局員)の言葉に耳を疑った。ゴーン被告の金融取引法違反と特別背任容疑に関して「公正な裁判をやると無罪になる可能性が高いと言われていた」「日産内部の権力闘争に関して、ゴーン氏を会社内部で権力の座から降ろすという道があるのにもかかわらず、検察の力を使ってやったのではないかという疑いがある」と、日産と検察による陰謀説を説きながら、同被告の逃亡は「極悪人」が逃げたのとは訳が違うと主張した。
◆強引に三段論法展開
これには、スタジオにいたニューヨーク州弁護士の山口真由が「それと日本の司法を逃れていいというのは別問題」とすかさず批判。それでも、玉川は「例えば、日本人が中国にいて中国の法律で裁かれる。その法律は日本人から考えたら人権にもとる上、有罪率が99%だというとき、(逮捕された場合)逃れたいと思うのでは」と再反論する始末。
ゴーン被告が主張する陰謀説を紹介する程度だったら、情報番組では許容範囲かもしれない。しかし、保釈中の密出国という重大な違法行為に理解を示すのは無責任のそしりを免れない。その上、事もあろうに共産党による一党独裁で司法の独立がない中国を例に挙げることの愚は、司法の素人でも分かる。
保釈中、日本から逃亡した外国人がいるが、人権が軽んじられる中国で逮捕され、脱出したいと思う日本人の気持ちは理解できるはず。だったら、ゴーン被告の気持ちも分かるでしょう、と無理筋の三段論法を展開した。
だから、「玉川さんの話を聞くと、ゴーンは極悪人ではないのだから、逃げていいと言っているように聞こえる」とコメンテーターの石原良純も口を挟んだ。それでも、玉川は「『逃げていい』とは言っていない。だけど、彼の立場に立ったらそれもあり得るだろうな」と言い張った。
◆予断を許さぬ情報戦
ただ、彼の発言には、留意すべき内容もある。「ゴーンさんが話すことと日本の検察やメディアが話すことのどちらの方が、海外メディアや海外の人たちにとって正当性があると映るかというのは微妙なところだ」。あくまでゴーン被告の主張に分があると言いたいのだが、その趣旨とは別に、資金力と情報ネットワークを使いこなす力さえあれば、嘘(うそ)も「真実」にすることができるのが世界の現実であるのは確か。
ゴーン被告が8日、レバノンで開いた記者会見に限れば、主張は具体性に乏しく、日産と検察による陰謀を暴くのとは程遠い内容だった。これには「自画自賛の会見だった」とフランスのメディアなども冷ややかだった(本紙10日付)。
だが、情報戦は始まったばかり。同被告はその後、日本のメディアに対しては「日本が好きだ」とリップサービスする一方で、海外メディアには「制度が変わらない限り、外国人には日本に行くことは勧めない」「(日本は)北朝鮮や中国、旧ソ連時代のロシアにいるようだ」と言いたい放題を続ける。
米国からは、今回の逃亡劇を映画化する話が持ち込まれているそうだ。もちろん、同被告はヒーローに祭り上げられるだろう。ならば、日本でも、同被告を悪役にした映画を製作して対抗すべきだろう。国際社会を舞台にした情報戦は、それくらいでないと勝てない。(敬称略)
(森田清策)