「アイデアを無断使用」と「寅さん」の監督を告発、独占取材のポスト

◆文春砲でも人気低落

 週刊文春のスクープは“文春砲”と呼ばれもてはやされているが、必ずしも部数増や週刊誌の人気回復につながっていないようだ。月刊「THEMIS」1月号で文藝春秋関係者は「19年10月、『週刊文春』は菅原一秀経産相と河井克行法務相の公選法違反疑惑スクープで、立て続けに辞任に追い込んだ。記事は各方面で話題になり、編集部も大いに気勢を上げたが、部数はなんと前年割れ。ラグビー日本代表の快進撃を特集した『Number』で収支をカバーする始末だった。返品率も50㌫前後と、完全に危険水域を超えた」という。

 THEMIS誌はこの現状を、文春砲の「内容は政治家や芸能人の恋愛・不倫といった醜聞が多い。要するに社会に疑問を投げかけるものではなく、『話題は数日で忘れ去られる(後略)』(文春関係者)のだ」「人の名前が代わるだけのマンネリ記事に、読者が興味を持ち雑誌を手に取るはずがない」と分析している。

◆人気映画監督の醜聞

 今週の週刊誌の中で「公開中『男はつらいよ お帰り 寅さん』に重大トラブル発生!/横尾忠則(83)『山田洋次(88)監督にアイディアを盗まれた』」は、週刊ポスト(1月24日号)のオリジナル記事。醜聞は醜聞だが、人生のドラマをうまく切り取っている。

 正月映画として公開中の『男はつらいよ お帰り 寅さん』は、故・渥美清が演じた車寅次郎をCGで再現し、オリジナル・キャストと過去作品の名場面をつなげた。この新奇のコンセプトとアイデアは、実は、世界的アートディレクターの横尾忠則氏が2012年に、山田洋次監督に直接示したものが核になっている。しかし当の横尾氏は、その事実を作品完成まで知らされず、試写を見せられた時、初めて気付かされた。憤然として席を立ったという。

 筆者の私見だが、横尾氏と山田監督の、それぞれの発言を見ると、いわゆるイデオロギー的には反りが合わない関係だと思われる。しかし二人は10年ほど前、たまたま出会った蕎麦(そば)屋で、山田監督が横尾氏に「渥美さんの肖像画をほしい」と懇願し、同氏がかなえ意気投合、それから一緒に映画を見る仲になり、その間、今回のアイデアが横尾氏から提案された。その辺りの事情を編集部は横尾氏に取材しているが、才能が才能に惚(ほ)れるという縁であろうか、興味深い。

 横尾氏の激怒ぶりはすさまじい。山田監督宛てに手紙で、「(監督は)晩節を汚している」とまで言い及んだ。山田監督は、横尾氏のアトリエに飛んで来て「名前を出すと忙しい横尾さんに迷惑がかかる(と思った)から」とか「今度こそ一緒に映画を作りましょう」と横尾氏の肩を抱くようにして弁明したという。

 編集部は山田監督にコメントを求めたが、本人に代わり松竹宣伝部が回答。「横尾さんがイメージされたような実験的な映画ではなくなってしまったので、横尾さんのお名前を出すのは失礼だと監督は思っていた。でもこれからは喜んで名前を出していくつもりです」と、やはりずいぶん腰が引けている。アイデアを受けたのは、8年も前の蕎麦屋の席、本人は忘れているだろう、なら、だんまりを決め込もう、ということだったのだろう。巨匠同士の喧嘩(けんか)は山田監督の完全敗北で締められている。しかし、巨匠も人の子、とどこか高見の見物のような記事の調子が臨場感を出している。

◆映画の実際の評価は

 ところで、1月末に公開予定の映画『男と女 人生最良の日々』も、映画製作では前代未聞のアイデアだ。『男と女』は半世紀前、世界で大ヒットした仏映画だが、その主人公二人の53年後が、俳優・スタッフをまったく同じにして展開されている。その趣向に溺れず、奥行きの深い、現代に通じる人生賛歌になっている。くだんの映画の評価は、実際どうなのか、それについて専門家の話が記事中にあってよかった。

(片上晴彦)