蔡氏再選、安倍首相に台湾の国際組織参加や復帰の後押しを迫った産経

◆共産党独裁に「ノー」

 約260万票の圧倒的大差――。11日に投開票が行われた台湾の総統選は、現職の蔡英文氏が総統選での過去最多となる約817万票超の得票で圧勝した。

 「民主化が進んだ台湾は、共産党による独裁体制が続く中国と距離を置く選択をした」(日経12日付社説)のである。

 この結果について、台湾と中国の政治体制の規定が日経ほど明確ではない朝日(同)は香港の「一国二制度」の実態から「台湾の人びとは、中国との距離を置く『現状維持』を唱える蔡氏を圧勝させた」、中国の総統選介入・妨害を強調した産経(13日付主張)は「蔡氏が勝利宣言で『民主的に選ばれた政府が恫喝(どうかつ)に屈することはない』と語ったのは、中国の横暴を断じて許さぬ決意の表れ」と、それぞれ論じた。

 これに対して、読売(12日付社説)は蔡氏が「民主主義と専制は同一国家では併存できない」と述べてきたことに言及。中国が求める「統一を拒否する姿勢を鮮明にしてきた」「台湾の有権者は、統一を迫る中国にノーを突きつけ、台湾の独自性を重んじる政権の継続を選択した」、毎日(13日付同)は香港の「1国2制度」の機能不全に言及し、間接表現ながら「『独裁と民主は共存できない』と主張した蔡氏の主張の正しさが裏付けられる形になった」、小紙(14日付同)も「共産党独裁体制の中国」の香港での強硬姿勢に言及し「危機感を強めた有権者が中国の干渉を明快に拒否した蔡氏にこぞって投票した」と政治体制の原点に触れた上で評した。中国が「共産党一党独裁政権」であることを明確にした上で問題を論ずることはこの場合、欠かせないのである。

◆朝日除き中国に直言

 その上で、各紙は「台湾の民意を尊重」し「武力統一をちらつかせる言動は厳に慎」み、「中台関係の安定に資する新たな施策を探る」こと(日経)、「台湾の民主的な制度と民意を尊重すべき」(読売)、「中国はこれ以上、無意味な妨害や干渉をやめるべき」(産経)などと中国に直言する。社説だからそれぐらい迫ることは当然である。

 一方、「中国の姿勢転換が必要だ」と見出しを掲げて「問題は中国の出方だ」とした毎日は「台湾の民意を直視し、政策の見直しや対話を進めるべきだ」と求めた。台湾への圧力強化は台湾海峡の緊張を高め「米国との対立も深まるだろう」と指摘。その上で「中国は台湾や香港の若者が自らの将来を懸念し、自由や民主の行方に強い関心を持っていることを真剣に受け止め」る姿勢がなければ「中国への信頼は生まれまい」と諄々(じゅんじゅん)と説いたのは肯(うなず)ける。

 いずれにせよ、朝日にはこうした各紙が中国に直言する表現が見当たらないのは不思議と言う他ない。

◆対話促進求めた読毎

 問題は中台関係をどう安定させるかのこれからだ。日本と国際社会はどうすべきか、である。

 読売と毎日は中台の対話を求めた。「台湾の安定と発展は、日本や周辺国にとって極めて重要」だと説く読売は「中国は政治対話を再開し、緊張緩和に動かねばならない」と主張し「日本は中台双方に対話を促すことが求められる」、毎日は「台湾海峡の安定は日本にとっても重要課題だ。中台の対話を後押ししていきたい」とそれぞれ結ぶが、対話の促進ぐらいは誰でも思いつくことである。

 小紙は「台湾はアジア太平洋の自由の砦(とりで)として、わが国と共に地政学的にも重要な位置にある」ことを指摘し、台湾の「現状維持政策」を支持。日本はこれを「積極的に支援し、近くて近い国として友好関係を築いていく」ことを求めたが、主張が抽象的なのは否めない。

 この点で、産経はさらに踏み込んだ主張をしたのが光る。台湾に「中国の侵攻の口実となり得る『独立』への過度な傾斜」を戒めた上で、日本に「中国の圧力で締め出された世界保健機関(WHO)など国際組織への参加や復帰」や「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加入を安倍晋三政権は後押しすべきだ」と具体的行動を迫ったのである。踏み込んだ極めて妥当な主張である。

(堀本和博)