ラグビーW杯の大成功で各紙は代表強化の継続と競技普及の必要指摘
◆日本中を熱狂に包む
「想像がつかなかったラグビーのうねりを巻き起こした。日本のみなさんがスクラムを組んで成し遂げたオールジャパンの成果」(ラグビー・ワールドカップ<W杯>日本大会組織委の御手洗富士夫会長)と語れば、同・嶋津昭事務局長も「ラグビーの持つ価値が日本人のハートをわしづかみにした」と興奮が冷めやらない。
日本人関係者だけが自画自賛しているのではない。ラグビーの国際統括団体であるワールドラグビーのビル・ボーモント会長も「最も偉大なW杯として記憶に残ると思う。日本は開催国として最高だった」と満点の評価をしたのだ。
大会は9月22日から44日間にわたり日本中を熱狂に包み、大きな感動を残して、この2日に幕を閉じた。台風19号で中止された3試合を除く計45試合が、決勝戦が行われた横浜国際総合競技場など12会場で行われた。総観客数は170万人余で、1試合平均約3万8000人。販売されたチケットは約184万枚(中止の3試合を含む)は観客席の99・3%に上った。日本代表を準々決勝で破った南アフリカとイングランドの決勝は同競技場の過去最多を記録する7万103人が入場したのである。
各紙の論調も、大会の成否、試合について、チケット販売など大会の運営、国際交流など、それぞれの視点は違っても評価では等しく絶賛している。
◆ラグビー精神を称賛
「これほどの大会の成功は予想できなかった」と率直にかぶとを脱いで切り出した産経(主張3日付)は「大会を成功に導いたのはファン」だと持ち上げた。「試合後は敵味方なく選手らが肩を抱き合い、スタンドでは両国のサポーターが笑顔で記念写真に納まった。本場の英語圏では死語になっているという『ノーサイド』の精神は、日本から世界に再発信された」とラグビー精神を称賛。期間中の大型台風で試合中止となったカナダ代表選手らが、岩手・釜石市の被災地で復旧作業を手伝うなどのボランティア活動をし、地域との交流を深めたこともたたえた。
読売(社説4日付)も「大会を通じて示されたのは、選手やファンが相手チームに敬意を払うラグビーの精神文化だった。心を動かされた人も多かろう」とノーサイドの精神に言及。「多くの会場で、日本の観客が出場チームの国歌や代表歌を一緒に口ずさんだ」ことや海外チームの選手が「日本式のお辞儀をして、観客に感謝の気持ちを表し」てグラウンドを去ったこと、カナダ代表のボランティア活動をたたえ、内外の共感を呼んだことを強調した。同感である。
同様にノーサイドの精神をたたえた毎日(社説3日付)は「アジアでは初開催だったが、国境を超えて世界の人々が交流するスポーツの価値を再認識させてくれた」と評価した。ニュージーランド代表の事前キャンプ地だった千葉・柏市で、子供たちが歓迎イベントで同国の伝統の踊り「ハカ」を披露したエピソードからグローバルな交流を紹介。日本代表についても「日本国内で長くプレーする選手たちが国籍に関係なくチームを構成し、私たちは代表の戦いぶりに胸を躍らせた」ことが「さまざまなルーツを持つ人々が暮らす現代社会の鏡のようだった」と感慨したのは、未来の社会の理想を洞察してもいて深く考えさせられる。
◆厚み必要な日本代表
小紙(社説4日付)は日本代表の試合内容の吟味を中心に「さらなる飛躍を遂げた」と評価。次のフランス大会に向けて「ベスト4以上を目指すには、戦力に厚み」を付ける課題があると指摘した。準々決勝まで5試合をほぼ固定メンバーで戦ったため「疲労が蓄積し、南ア戦では本来の実力が発揮できなかった」との分析は検討の余地があるはずだ。
一方、喜んでばかりいられない。課題も山積する。「国内では、高校生のラグビー離れが顕著で、競技人口は減少傾向」(読売)で「代表強化の継続と競技の普及が不可欠」(産経)なことは各紙が一致して指摘するのだ。
(堀本和博)