韓国抜きでも軍事訓練 北に核リスト提出迫る米
平壌宣言は文政権の“暴走”
9月19日の平壌共同宣言は関係国が注目していた「北の非核化」ではなく、南北の軍事的緊張緩和に重点が置かれていた。後日、東京で行われた国慶日(韓国建国記念日)のパーティーで李洙勲(イスフン)駐日韓国大使は、「不可侵条約に相当する」と胸を張った。
共同宣言は非武装地帯と日本海側、黄海側での軍事行動を制限している。だが、ここでの軍事行動は韓国軍単独で行われるものではなく、まして非武装地帯の共同警備区域(JSA)は国連軍の管轄下にあり、韓国が独自に決定できるものではない。
韓国軍と合同軍事訓練を行っている米国には“寝耳に水”だったようで、ポンペオ米国務長官が康京和(カンギョンファ)韓国外相にねじ込んだという報道もあり、米韓間で混乱している。
韓国側は事前に米側と「協議」したとしているが、「合意」していたわけではなく、ポンペオ長官の激怒ぶりを見ると、国務省まで届いていなかった可能性もあり、いずれにしても、米韓で十分な意思疎通が行われた可能性は低い。文在寅政権の“暴走”だったようだ。
とはいえ、文政権が北への傾斜を深めることは織り込み済み。米国は既に“韓国抜き”での軍事作戦をまとめている。東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」10月号では、非核化が消し飛んだ後の米軍事シナリオとして、「韓国軍参加なくも米日豪連合軍、北700カ所打撃訓練」の記事を載せた。
米国と韓国は、北朝鮮の「急変事態」に対応する「作戦計画5029」を準備していたが、盧武鉉(ノムヒョン)政権が一方的に中断させた経緯がある。この時から、韓国の左派政権には北朝鮮への軍事的対応を徐々に縮小していこうとしていた兆候があった。同記事の筆者・金(キム)基鎬(ギホ)京畿大政治専門大学院招聘(しょうへい)教授はまさにこの時、米韓連合軍司令部作戦計画課長を務めていた人物で、盧政権の決定がいかにむちゃだったかを肌身で実感している。
北側が約束を守る保証もなく、むしろ何度も約束を反故(ほご)にしてきた過去があるにもかかわらず、韓国側が一方的に銃を降ろしたがっている格好で、米側にしてみれば、もはや韓国頼むに足らず、と見限った感さえある。実際、金教授は「米軍インド太平洋軍が(作戦計画を)準備中で、韓国軍が参加しなくても、米国、日本、オーストラリア連合軍が主導すればよい」との「米軍関係者」の言葉を伝えている。
2度目の米朝首脳会談が予定されているが、トランプ米大統領は「中間選挙後」と日程を示した。与党共和党の勝敗に関係なく、金正恩委員長が核リストを提出しなければ、「11月から大規模軍事訓練を再開する可能性がある」と「米軍事情に明るい軍事専門家」は指摘しており、それは当然、米韓の合同訓練となる。その際、「来年2、3月に危機が来るだろう」との予測を示している。
合同訓練に投入されるのは、核ミサイルを搭載できる戦略爆撃機、三つの空母強襲団、長射程のミサイルを大量に搭載でき、遠距離からでも北朝鮮の攻撃目標を狙える戦略爆撃機、北朝鮮内の700カ所の戦略拠点を爆撃できるステルス戦闘機などで、とてつもない武力示威行動が展開されることになる。
米軍関係者は「非核化ができないときに備えて、多様な状況を考慮した致命的高強度訓練を計画している」とし、戦争の危機局面だった「平昌冬季五輪前に時計を戻す」ことまで考慮していると伝えている。これは金委員長に核リスト提出を迫る圧力として作用することになるだろう。
たとえ、平壌共同宣言で合意した区域外でこの米韓合同訓練が行われたとしても、北朝鮮が強く反発してくるのは目に見えている。間に立つ文政権が窮地に陥るのは避けられないだろう。こうした米側の圧力を受けて、北にリストを出させるのか、米国との関係をこじらせるのか、文在寅大統領の悩みは深いことも同記事は伝えている。
編集委員 岩崎 哲