韓国でも「ミー・トゥー」旋風 背景に80年代の性解放思想
渦中の加害者は皆、左派陣営
韓国で「私もセクハラを受けた」という「ミー・トゥー」旋風が吹き荒れている。政治家からノーベル賞候補にも擬された高名な詩人までが追及を受けている。儒教社会である韓国では女性の性にはことさら厳しく、女性自らが自身の性的恥辱を口にすることは憚(はばか)られる社会だった。しかし「慰安婦」問題からなのか、大っぴらに口に出して訴えるようになった。
昨年10月、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏のセクハラ疑惑報道をきっかけに、セクハラ被害に声を上げる人たちが世界中に広がり、それが韓国に渡るのにはそれほど時間を要さなかった。今年1月末に検事の徐志賢(ソジヒョン)氏がケーブルTVに登場し、8年前のセクハラ事件を暴露したのだ。
それを切っ掛けに、大統領候補者としても名前が挙がる忠清南道知事の安熙正(アンヒジョン)氏、元大統領府報道官の朴洙賢(パクチュヒョン)氏、さらにはノーベル文学賞のたびに受賞が取り沙汰される詩人の高銀(コウン)氏、その他に映画監督、映画俳優で元大学教授等々、次々に告発された。
特に衝撃的だったのは「イケメン知事」としても知られた安熙正氏だ。自身の随行秘書の女性に性関係を強要し、それに耐えられなくなった秘書がTVに訴え出た。このTVが先の徐検事と同じ局のJTBC。聞き出すのはアンカーマンの孫石熙(ソンソッキ)氏だ。「崔順実(チェスンシル)ゲート」を“スクープ”して、朴槿恵(パククネ)大統領退陣の火付け役となった(退陣の後に同局が入手した崔氏のタブレットPCが偽物だと報道された)。
ここで女性秘書の語るところを聞くと、韓国の権力者と女性部下の在り方が分かってくる。一問一答を「月刊朝鮮」(3月号ネット版)が掲載している。
「私は知事様が話すことに反問できなかったし、いつも従わねばならなかった」
「私はいつもうなずくだけで、知事様の考えに合わせて、表情一つも見逃さないようにすることが随行秘書の仕事だったために、(性関係強要を)断れなかった」
「私は知事様と何かを合意してするそのような関係ではない。知事様は私の上司であり、無条件に従わなければならない、そういう間柄だ」
安知事は女性秘書に口止めをした。無料通話アプリで「申し訳ない、心配するな。忘れろ、みんな忘れろ、(海外出張中の)美しいスイスとロシアの風景だけを記憶しろ」と迫り、さらにミー・トゥーがメディアで大騒ぎになると、「知事様は最近、夜私を呼んで、『君を傷付けてしまったことが分かった。申し訳ない』と言った。ああ、それでその日は性関係を持たないのだろうなと思ったのに、結局その日もまたした」という。
安氏は知事を辞任し、性関係を持ったことを認めたが、「合意の上だった」と強弁している。まるで、両班が女の奴婢(ぬひ)に手を付けるのは当たり前だった李朝時代のような話である。もっとも両班が奴婢に謝ることなどなかったが。
今回のセクハラで特徴的なのは加害者が皆、左派陣営の人物ということだ。安氏は学生運動の核心運動家だった。地下アジトで朝鮮労働旗と金日成(キムイルソン)、金正日(キムジョンイル)の写真を前に忠誠誓約をし、対南放送「救国の声」の録音放送を丹念に聴いていたと同誌はいう。朴元報道官もソウル大学で学生運動を主導して中退した。
詩人の崔泳美(チェヨンミ)氏が男性老詩人のセクハラを素材に書いた詩「怪物」のモデルは高銀氏である。「新東亜」(3月号)が取り上げているが、高銀氏は「韓国左派文芸人の頂点」に立つ人物と言われている。
こうした傾向について保守野党・自由韓国党の洪準杓(ホンジュンヒョ)代表は「月刊朝鮮」に、「1980年代に左派が理念教育をし、その最後が『性羞恥からの解放』だった」とし、「最近のセクハラ暴露は親北左派運動圏が教育してきたその延長に出てきたものではないか」と指摘している。
だとしたら皮肉な話だが、慰安婦問題を左派が主導している理由もよく分かる。
編集委員 岩崎 哲





