「桂・タフト協定」の再現 安保不感症の文大統領

韓国抜きで事が進む可能性

 相次ぐ北朝鮮のミサイル挑発をめぐって米国、中国が協調体制に入ったと韓国の専門家は分析している。そうした時に、韓国の「親北政権」はいわば自分の庭先で起こっている緊急事態に目を瞑(つぶ)り、対話路線の夢を諦め切れていない。しかし、そうすればするほど、米中からは相手にされず、国際社会からも疎外され、かつて朝鮮半島の運命が他国に決められてしまった1905年の「桂・タフト協定」のように、第二の「習近平・トランプ協定」ということもあり得る、とこの専門家は警告する。

 東亜日報社の総合月刊誌「新東亜」(6月号)は「中国通が認める中国通」として知られる金興圭(キムフンギュ)亜州大教授にインタビューした。この中で金教授は文在寅(ムンジェイン)政権に「南北対話を急ぐな」と提案、米中が対北で圧力を強めるなら、「両国の協調が一層強くなるように助けるべきだ」と助言している。

 文大統領は就任当初、“条件が整えば”北朝鮮訪問もあると公言してきた。「親北」として知られ、大統領府の陣容も南北会談を見据えたものである。大統領として平壌を訪ね、金正恩(キムジョンウン)委員長と会談する気満々なのだ。

 だが、国際社会の北朝鮮に対する見方は極めて厳しい。ミサイル発射実験を繰り返し、核弾頭の開発も取り沙汰されている中で、緊張はますます高まっている。とても、文大統領が平壌を訪れるような情勢ではない。

 それどころか、韓国には危機感も緊張感もない。文大統領は北朝鮮が「火星14型」大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した2日後の7月30日から休暇を取ったために、トランプ米大統領と意見調整することができなかった。安倍首相とトランプ大統領が約50分間、電話で“断固たる対応案”を話し合ったのとは対照的で、韓国メディアは文大統領の「安保不感症」を糾弾している。

 北朝鮮の核・ミサイル問題は「解決するには最後の機会」に入りつつある。ここで国際社会が一致して強硬策で北朝鮮に圧迫を加えているところに、南北対話を諦め切れない文在寅政権が、北が流してくる「南北関係改善」の誘いを真に受けて、歩調を乱すようなら、国際社会は「コリア・パッシング(韓国抜き)」で事を進める可能性がある、と金教授は危惧するのだ。

 サード(高高度防衛ミサイル)配備で中国からは「コリア・バッシング(韓国叩〈たた〉き)」されている中で、さらに「コリア・パッシング」されては、それこそ「第二の桂・タフト協定」ということだ。

 かつて盧武鉉(ノムヒョン)大統領は米国など自由陣営と共産勢力の中国の間で「バランサー」の役割を目指したことがあった。とてもその力量が足りず、双方から疑心の目で見られて何の成果も挙げることができなかったが、金教授の見方は、逆に米中が協調している今だからこそ、韓国は両国に加勢していくことでパッシングもバッシングもされないポジションを確保できる、という主張だ。

 中国にとって韓国は「未来戦略上、非常に重要な存在」だという。「北朝鮮問題だけ解決されれば、利益溢(あふ)れる構図だという点を中国にアピールしなければならない」と金教授は強調し、中国に以下の内容を「約束」すべきだと指摘する。「米韓関係を強化しても中国を敵対視する同盟にはならない。北朝鮮を押し倒そうとする現状変更勢力にならない。平和統一政策を推進する」ということだ。

 今現在、文在寅政権の対中外交は骨格すら見えてこない。先頃、マニラで行われた会議では康京和(カンギョンファ)外相は中国の王毅外相に“叱られて”きたような状況で、この「約束」をどう中国に納得してもらうのか。金教授は具体策までは言及していない。

 韓国は宿命的に周辺4強大国の影響を受けざるを得ない。特に米中は強い影響力を持つ。しかし、日露を含めて、これらの国々に派遣すべき大使すら決まっていない現状で、どうやって韓国政府の立場を伝えていくのか、文在寅政権の行く先が読めない。

 編集委員 岩崎 哲