韓国大統領を目指す面々

元ソウル市長や現・元道知事/潘基文氏も意欲満々

 韓国大統領選まで1年。聞こえてくる大統領候補は潘基文(パンギムン)国連事務総長の名前ばかりだ。しかし、「歴代最低の事務総長」にしか韓国の舵(かじ)取りを任せられないほど、韓国に人材がいないわけではないだろう。

 朝鮮日報社が出す総合月刊誌「月刊朝鮮」(10月号)は潘基文氏を含め大統領選出馬に意欲を示している人物らを特集している。

 呉世勲(オセフン)元ソウル市長。1961年生まれの55歳。弁護士、国会議員などを歴任、ソウル市の給食無償化を争点に市長再選を試みたが敗退した。現在、漢陽大特任教授を務めながら大統領選出馬の準備を進めている。

 呉氏は8月に『なぜいま国民のための改憲なのか』という小冊子を出し、さらに『なぜいま共存か?』という第2弾を出した。最終的に第5弾まで出す予定だという。国民的テーマについて自身の意見を訴えている。

 韓国は国内総生産(GDP)11位、外貨準備高7位、軍事力11位と世界のトップクラスに迫ろうという国になりながら、その代償として、貧富の格差が広がり、社会の二極化も進んだ。青年たちは「就職も、恋愛・結婚も、マイホームも、出産・子育ても、全部不如意」が現実だ。青年だけでなく「全ての世代が憂鬱(ゆううつ)」というのが呉氏の認識だ。

 「脆弱(ぜいじゃく)者に配慮した福祉」を掲げるが、南北統一や国防、外交についての意見が見えてこない。

 呉氏よりもさらに若いのが南景弼(ナムギョンピル)京畿道知事だ。1965年生まれの51歳。早々と「募兵制」を打ち上げて、「アジェンダ先行獲得に成功した」と言われている。募兵制とは兵を雇う制度のことで、南氏の主張はこうだ。

 「2025年前後に人口の絶壁が到来すれば、50万人以上の兵力規模の維持が不可能になる。30万人規模の小さくとも強い軍隊を維持して、給与200万ウォンの9等公務員水準の待遇をしてやらなければならない」

 若くして政界入りし、政治経験が豊富な点が強みな上に、話題獲得でも巧みなところを見せているが、他陣営からは「それでは貧しい家の子弟だけが軍隊に行くことになり、正しい発想ではない」と批判を受けてもいる。

 京畿道知事を務めた金文洙(キムムンス)氏は1951年生まれの65歳。現在、セヌリ党保守革新特別委員長のポストにある。学生時代に労働運動、民主化運動を行って民生学連事件(74年)でソウル大を除籍されている(後に卒業)。前回2012年の大統領選に出馬表明したが、セヌリ党内選で朴槿恵(パククネ)氏に負けた。

 現在の思想的立ち位置は保守だ。国防上の焦点となっている高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)配備について金氏は、「北が保有する1000基余りの弾道ミサイルから大韓民国を守ろうとすれば、サード導入は避けられない」と断言する。

 さらに金氏は「韓国の核武装」まで口にした。「いま直ちに核武装を始めなければならない。北の核はもちろん、中国、ロシア、日本など強国に囲まれた弱小国がこれからも生き残ろうとするなら、対等な核抑止力を備えることが必須」だと強硬な主張を展開するのだ。現在の南北状況からして、金氏のような強硬論が受け入れられる素地は十分にある。

 さて、潘基文氏についても触れておこう。事務総長を年末に退任する。普通は「回顧録」出版や財団設立をするものだが、潘氏にその動きはないだけでなく、「家族周辺の整理をしている」といい、これは「出馬を決心した表れ」だと同誌はみる。

 事実、宝城パワーテク副会長を務めていた実弟の潘基浩(パンギホ)氏が退任した。同社が「基浩氏も知らない間に増資し、株価が7倍近く急騰した」のだ。大統領選と関連して「潘基文関連株」の動きが激しく、関与を疑われることを避けたものとみられている。こうした“身辺整理”を見ると潘氏も意欲満々のようだ。

 今後1年、候補が出ては消えして絞られていく。

 編集委員 岩崎 哲